2023.11.23
ドラゴンボールにはさまざまな技が登場しますが、中でもフュージョンが好きという方は多いのではないでしょうか。2人のキャラが組み合わさって新しい見た目になることや、強さが跳ね上がることなど、見ていてワクワクするフュージョン。トランクスが「かっこわりいぞ…」とあぜんとしてしまった、特有の動きとポーズも印象的です。
孫悟天とトランクスは特訓の末にフュージョンを体得、融合を成功させ、「ゴテンクス」として一時は魔人ブウと互角に戦うまでにパワーアップしました。現実では人間が融合するなんてちょっと想像がつきませんが、作中の2人の間には、いったい何が起こっていたのでしょうか?
今回は、徳島大学大学院で細胞工学を研究している和田 直樹先生にお話を伺います。人間と植物の部分的な細胞融合に、世界で初めて成功した実績を持つ和田先生。フュージョンの仕組みについて聞いてみた所、取材陣がまったく予想していなかった考察を伺えました。
語り手:和田 直樹先生
徳島大学大学院社会産業理工学研究部生物資源産業学域 植物分子育種研究室 (特任助教)。日本学術振興会特別研究員PDとして、鳥取大学押村光雄教授の指導を受け、大阪大学大学院の福井希一教授らと共に、ヒト細胞と植物細胞の細胞融合に世界で始めて成功した。見てみたいフュージョンの組み合わせは「ピッコロと孫悟飯」。
聞き手:ヒガキ ユウカ
編集者、ライター。物心ついた頃から生粋の文系で、苦手科目は理科。大人になってから漫画などのエンタメを通して、理科の面白さに気付きつつある。
――そもそも、融合とはどんな現象のことを指すのでしょうか?
和田先生(以下、和田):いろんな切り口がありますが、細胞融合でいうと、二つの細胞が合わさって一つの細胞になることです。細胞融合は自然界でも起きている現象で、わかりやすいものでいうと生殖の際に受精が起きますよね。あれはまさに、卵子と精子の融合です。
ほかにも人体では、筋肉や骨の中でも、ある種の細胞同士が融合して大きな細胞を形成しているそうです。微生物の世界では、例えば酵母ですね。酵母は一つの細胞でできている単細胞生物ですが、2つの異なるタイプの細胞が細胞融合をすることで、有性生殖を行います。
――私たちの世界でも、いろんな場所でさまざまな融合が起きているんですね。和田先生はこの分野のどういう所に魅力を感じたんでしょうか?
和田:僕の場合は、自然に起きている融合よりも、人為的な融合に興味があるんです。自然界で起きていない現象を人為的に起こすことで、生命の基本的な仕組みにアプローチできないかなあと思っています。
ドラゴンボールの世界では、ナメック星人の生態が気になっています。彼らもまさに融合できますよね。
――ドラゴンボールでは、フュージョンという技で2人の戦士が融合し、1人の強力な戦士になります。これは細胞工学的に考察すると、いったい何が起こっていると考えられますか?
和田:まず自然界で細胞融合が起きているのは、基本的に互いが単細胞の状態のときなんです。悟天とトランクスがフュージョンしたときのように、多細胞の個体同士が丸ごと融合するケースはないと思います。
聞いたことのある方もいると思いますが、「接ぎ木」ってありますよね。接ぎ木は、2種類の植物をつなぎ合わせることで1つの植物を作る技術ですが、2種類の植物が丸ごと混ざるのではなく、継ぎ目の上はある植物の部分、継ぎ目より下は別の植物の部分というふうに、はっきり分かれています。
「じゃあどうしたら悟天とトランクスという二つの個体が、ゴテンクスという一つの個体になれるのか」を考えてみたのですが、仮説としては2つ浮かびました。
――おお! どんなものでしょうか?
和田:ひとつは、2人の個体に含まれる細胞が融合することなく完全に混ざってしまうことです。でもそうすると、色などがモザイク状になると思うんですよね。例えば目の色なら、悟天の黒とトランクスの青がまばらになるはず。でもゴテンクスの目は黒一色なので、この線は否定されそうです。
目の色をはじめ、パーツごとに悟天の特徴とトランクスの特徴がそれぞれみられるゴテンクス
和田:そうなるとやっぱり細胞融合するしかない。ただ、個体同士が丸ごと融合、というのは難しそうなので、そこで二つ目に考えたのが、「受精卵同士でくっついている説」です。
――受精卵同士でくっついている説!?
和田:フュージョンって、独特の動きをしてから互いの指をくっつけて、その直後に発光する過程がありますよね。その瞬間に「2人がそれぞれ最初の1細胞の状態である受精卵の状態まで戻り、二つの受精卵が融合して一つの融合細胞になり、そこからまた急速に成長して一つの個体になる」。
人間として考えると突っ込みどころはあるのですが、これなら、二人分の遺伝情報を持つ一人の個体として成立しなくもない気がします。 「受精卵に戻る過程」、「融合する過程」、「また人間の形まで成長する過程」、3段階が一瞬で行われているのではないかと。
発光の瞬間に受精卵に戻って細胞融合、さらに急速成長までしているかもしれない2人
――フュージョンする条件には「2人の気をまったく同じにしなければならない」といったものがありますが、そのあたりも影響しているかもしれませんね。ちなみにフュージョンで融合すると、一人のときよりもはるかに強い力を持つと言われているんです。これは実際の融合でもあり得るものですか?
和田:植物の世界に、「雑種強勢」という言葉があります。2種類の親植物を交配して雑種をつくると、元の親より良い種が生まれることがあるんですね。まったく違う性質のものを組み合わせることで、もともと持っていなかった性質を、もう一方からもらえるかもしれないメリットがあります。
ただ、基本的には近縁の種同士の方が、交配はうまくいきやすいです。DNAが近縁のものの方が維持されやすいんです。
――悟天とトランクスはどちらもサイヤ人の血を引いているので、そういう意味でも相性が良かったのかもしれないですね。
――ドラゴンボールではフュージョンのほかにも、もうひとつ融合の方法があります。こちらは個体差や気の強さの違いに関係なく、「ポタラ」というピアスを片耳ずつつけるだけで瞬時に融合できるというものです。この融合は、フュージョンとどういう違いがあると思いますか?
和田:フュージョンがある程度似た性質のものが融合できる技だとすれば、ポタラはそのままでは融合できる状態にないもの同士を、無理やり融合させることができるアイテムなのかなと思います。
――それこそ和田先生が研究されている、人工的な融合のようですね。
和田:そうですね。例えば僕が行ったヒト細胞と植物細胞の細胞融合だと、「ポリエチレングリコール」という試薬を用いて、それぞれの細胞膜を弱くしているんですよ。
そうすることで、くっつくことができる状態になる。そんなふうに、言ってしまえば「無理やりくっつける」状態が、ポタラによる融合の特徴なのかもしれません。
――もともと界王神様のとっておきの宝だったと言いますし、かなりレアなアイテムではありますもんね。
――フュージョンとポタラではもうひとつ違いがあって、フュージョンは30分、ポタラは界王神以外が使った場合は1時間で融合が解除されます。自然界での融合にも、持続時間のようなものはあるのでしょうか?
和田:自然界での融合は、基本的に元には戻りません。受精卵が精子と卵子に戻ることはないように、細胞融合したものが元に戻ることはないんです。
しかし、細胞が持つ遺伝情報を新たな細胞に分配する現象は存在します。それは、精子や卵子などの形成の過程で起きる、「減数分裂」という分裂です。
人間の細胞は、父親由来の1セット、母親由来の1セット、合計2セットの遺伝情報を持っており、「体細胞分裂」という細胞分裂により、2セットの遺伝情報を維持した新しい細胞を作っています。
でも精子や卵子のような生殖細胞を作るときは少し特殊で、受精のために必要な1セット分の遺伝情報を持つ細胞を作るんです。この分裂を「減数分裂」と言います。
今回の話で言えば、フュージョンやポタラで融合した個体から元に戻る過程で、この減数分裂が関係しているのかもしれません。
――体細胞分裂に減数分裂! 学生時代に授業で聞いた記憶があります。
和田:今回、先ほどお話ししたような方法で融合したとすると、ゴテンクスは悟天とトランクス両方の遺伝情報 (2+2=4セット)を維持しているはずです。そうしないと、どのように戻ればよいかわからなくなってしまうので。
そして、時がくれば (フュージョンの場合は30分経ったら)、何らかの力で再び1細胞の状態まで戻ってしまい、そこで減数分裂が起きます。もしかすると、この辺りのプロセスにかかる時間がフュージョンやポタラによる融合の解除に関係しているのかもしれません。
――ゴテンクスのフュージョンでいうと、単細胞になって融合し成長した悟天とトランクスがもとの2人に分かれるためには、再び単細胞に戻らなければならないんですね。
和田:ゴテンクスが単細胞の状態まで戻って減数分裂が起きることで、元々の悟天のみ、トランクスのみの遺伝情報を持つ細胞がそれぞれできあがります (自然界の減数分裂では、DNA間で組み換えなどが起きて元々の配列とは変わることがありますが)。その後、それぞれの細胞が増殖・成長し、悟天とトランクスという個体に戻っていきます。
和田:……正直かなりアクロバティックですが、頑張って説明するとしたら、こんな感じになると思います。
――とても面白いです。フュージョンによる融合の裏で、そんな生命の神秘が発動していたかもしれないんですね……!
――現実世界の融合についても教えてください。現在、どんな研究が行われているのでしょうか?
和田:今僕が参加しているものだと、植物が光合成するために必要な葉緑体を、動物細胞の中で機能させられないか、という研究がありますね。これが成功すれば、光合成ができる動物細胞を作れるようになります。遠い将来には、ナメック星人のような存在も生まれるかもしれません(※)。
※2022年の記事「ナメック星人=植物説。ドラゴンボール好きの生物学者に学ぶ、DBキャラと『進化』の魔訶不思議な関係」で、国立科学博物館研究員の奥山雄大さんは、「ナメック星人は生きるのに必要なエネルギーを光合成によって得ている」という考察を示した。
また、細胞融合の研究では物質生産での活用も進んでいます。 例えば体に病原菌などが入ってきたときに対処する「抗体」を作る細胞と、増殖機能がある癌細胞を融合すると、抗体を作りつつ増殖することができる細胞ができる。それで人工的に抗体をどんどん増やす取り組みもあります。
――ちなみに、もし技術的な制限がないとしたら、和田先生が融合させてみたいものはありますか?
和田:進化の歴史的にすごく離れたもの、自然では絶対に一緒にいないものを掛け合わせて、一緒の状態にすると何が起きるかを見てみたいですね。そこからいろいろ調べていって、「生命がどういうふうに成り立っているのか」に迫りたいです。
例えば人と植物って、進化的には15億年ぐらい離れているのですが、細胞の成り立ちとしては似ているんですよ。DNAを使っていたり、染色体という構造を持っていたりと、似たところがたくさんあります。しかもそれらが進化的に保存されてきたということは、生命ができる上ですごく重要な性質がそこに隠れているのかなと思うんです。
――少し遠いだけで、植物も私たち人間の親戚のような感覚になってきますね。本日は興味深いお話をありがとうございました!
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