2022.01.27
次々と形を変えるフリーザ、水だけで生きられるナメック星人。ドラゴンボールの世界には、世にも奇妙な生物、もといキャラクターがたくさん登場します。
原作を読みながら、子ども心に「なぜこんなことができるの……?」と不思議に感じた方も少なくないでしょう。形を変え、死にかけても自己再生し、挙げ句の果てには合体してしまう彼らの姿は、現実から大きく逸脱しているようにも見えます。
さて、ここで無邪気な疑問。
フリーザやナメック星人のような生物は実際に存在するのでしょうか。存在するならば、その生物はどのような「進化」を経てきたのでしょうか。今回、そんな無邪気な疑問にお付き合いいただいたのは、ドラゴンボール好きの生物学者・奥山雄大先生です。
奥山先生に、ドラゴンボールオフィシャルサイト編集部と生物学に詳しいライター・加藤がインタビュー。
「進化」というキーワードをもとに、生物の“魔訶不思議”を縦横無尽に語り尽くすインタビュー。とくとご覧あれ!
ライター:加藤まさゆき
理科教員でライター。専門は生物学。ジャンプ連載中の10年間、6〜16歳だった生粋のドラゴンボール世代。好きな女性キャラはピラフ大魔王の手下「マイ」。
語り手:奥山雄大さん
国立科学博物館研究員。専門は進化生物学。小学生の時はドラゴンボールの最新話を読むために毎週ジャンプを買っていた。悟空は永遠のマイヒーロー。
はじめまして、奥山先生。
編集部
どうぞよろしくお願いします!
早速ですが、先生のご専門は何でしょう。
はじめまして。私の専門は植物の進化。特に、進化の過程で花の姿や形、色、香りなどがどう変化したか、を調べています。
なるほど。ドラゴンボールの世界にもフリーザやセル、超サイヤ人のように姿を変えるキャラクターが登場しますね。今回編集部からは「ドラゴンボールキャラクターを“進化”という視点で語ってほしい」と言われていますが、彼らの形態変化や変身は「進化」と言えますか? 僕はちょっと違うんじゃないか、と疑っているのですが。
たしかに、進化ではないでしょうね。
編集部
えっ……ちょっと待ってください。めちゃくちゃ形が変わりますよね。あれが進化じゃないと言うなら、一体……。
「変態」ですね。
編集部
えっ……?
進化とは、集団としての生物が世代交代を経て性質を変える現象のことを指します。
植物を例に説明しましょう。花の形は花粉を媒介する生き物との関係性によって長い年月をかけて進化してきました。
例えば、ハナバチを呼んでいた植物の一部が、花の突然変異によってハチドリを呼ぶようになる。すると、その個体とハナバチを呼ぶ個体が交配しなくなり、別系統の進化が始まる。やがて花粉の飛ばし方や匂い物質の種類、タネのでき方に違いが生まれ、この繰り返しが花の形をさらに変えていきました。こうした進化の過程が、地球上に数多くの植物を生み出しました。
ヒメマルハナバチ
編集部
なるほど……。
フリーザは形態変化の過程で世代交代するわけではありませんので、成長に伴う変態に近いと言えそうですね。
編集部
進化と変態を分けるポイントは、世代交代を経るかどうかなんですね。加藤さん、どうしましょう。取材の冒頭から企画の根本がひっくり返りましたが、荷物をまとめて帰ったほうがいいでしょうか。
大丈夫。私たちのドラゴンボール愛と生物学の引き出しは、これくらいのことでは尽きません。
進化かどうかを抜きにしても、フリーザの形態変化って何とも言えない凄みがありますよね。
生物学的に考えるなら、私はあれを祖先から受け継いだ特徴と見ます。
と言いますと……?
フリーザって途中までツノがありますが、最終形態ではツノがなくなってツルンとするじゃないですか。ここに秘密があると思うんです。
例えば、エビやカニの幼体である「ゾエア幼生」のように、幼体と成体で形が変わる生き物は少なくありません。そうした生き物はしばしば、幼体のほうがトゲトゲしい見た目をしています。このトゲトゲは身を守るための手段なんです。
ゾエア幼生! あのしらす干しの中にたまに混ざってるやつ!
ミジンコの仲間にも、攻撃を受けるとトゲを伸ばす種類がいます。トゲは弱い生物にとって大切な防衛手段なんですね。
そう考えると、フリーザの祖先もトゲで身を守りながら成体になるまで変態を繰り返す、非常に弱い生物だったのかもしれません。
「しらす干しの異物」から「宇宙の帝王」にまで上り詰めた、ということですか。驚くべき下克上の度合いですね。
変態とは違う要素からドラゴンボールキャラクターと進化の関係を考えてみましょう。僕が特に気になっているのが、人間とサイヤ人の“雑種”である孫悟飯です。悟飯は「雑種強勢(ざっしゅきょうせい)」をモチーフにしているのでは。
編集部
雑種強勢とは……?
違う種同士の交配から生まれた雑種が、その親よりも強い特長を示すことです。農業でも、形が均一だったり、⽣育が旺盛だったり、風味が優れていたり、という作物を作るために雑種強勢のメカニズムを利用します(品種改良)。
たしかに、悟飯の強さは雑種強勢と言えるかもしれませんね。でも、この現象はそう単純に発現するわけではありません。両親が互いに強い特長を持ち合っていることが多いんです。
ウッ……たしかに人間とサイヤ人を比較した時、人間のほうが優れている特長ってパッと思いつかないですね。
でも、思い当たるシーンはありますよね。例えば、「伸びしろ」なんてどうでしょう。人間のクリリンはサイヤ人・フリーザ編だけで戦闘力が50倍くらい伸びます。
たしかに! クリリン以外の地球人も総じて、伸びしろは異常です。悟飯は幼少時から1000以上の戦闘力を持っていますから、クリリンの成長速度から予想すると、ものすごいポテンシャルがあることになる。
ギニュー特戦隊がクリリンと悟飯を見て、「変身もしないで戦闘力を変化させる種族とはめずらしい」とつぶやきますが、これも地球人の優れた特長と言えるでしょう。そう考えると、サイヤ人にはない特徴と案外うまく噛み合ったのかもしれませんね。
そこまで計算して悟空とチチを結婚させたのだとしたら、鳥山先生のアイデア力に脱帽するしかありませんね……。
進化のくくりで語れるかは分かりませんが、生物学の観点からドラゴンボールを読んだ時、やはり気になるのがナメック星人の生態です。卵を産んで増えたり、水しか飲まなかったり。彼らはどんな進化を経てきたのでしょうか。
自分も原作を読んでいた頃から気になっていました。
今のナメック星人たちは、全て最長老さまが産んだ個体ですよね。あれ、すごいシステムだと思いませんか。最長老さま以外にも成熟した個体がたくさんいるのに、繁殖に関わらないなんて。もしかすると最長老さまは生物学的には、「群れの中で子孫を残せる唯一の個体」なのかもしれませんね。
つまり……「ミツバチの巣の女王バチ」のような存在、と。
たしかに最長老さま、どう見ても家の入り口から出られそうにないですし、巣から出ない女王バチのような趣がありますね。
ただ、最長老さまは亡くなる時、後継の新しい長老(ムーリ)を指名しました。ミツバチのコロニー(群れ)は女王バチが死ぬと滅びてしまうので、ミツバチの生態とナメック星人の生態は少し違うのかもしれません。
あ、分かりました! ミツバチよりもハダカデバネズミに近いのかもしれません。女王(子孫を残す唯一の個体)が死ぬと、残された個体のうち1匹が新たな女王となって、また子孫を産み始める。
なるほど。となると、最長老はフェロモンを出して、ほかの個体が卵を産むのを抑制しているのかもしれませんね(注:ハダカデバネズミの女王以外のメスは、女王のフェロモンで排卵が止まる)。
最長老の出すフェロモン、匂いの想像ができないですね。
ナメック星人は水だけで生きられますよね。彼らは生きるのに必要なエネルギーをどうやって得ているのでしょうか。
生物学的に考えると、植物と同じく光合成じゃないでしょうか。体の色も緑色ですしね。
そうでしょうね、ナメック星には太陽が3つあって夜がありませんから、光合成こそが最強のエネルギー摂取方法なのかもしれません。
実は動物にも、藻類と共生したり、あるいは葉緑体を持ち、光合成でエネルギーを得る生物もいるんですよ。サンゴは特に有名ですが、他にも。このチドリミドリガイというウミウシは見た目もナメック星人っぽいですね。
チドリミドリガイの仲間(Chaloklum Diving/Wikimedia Commons)
うわっ、どことなくナメック星人に似てる! ナメック星に「進化」の図鑑があったら、「5億年前のわたしたち」という説明とともに載っていそう。
ナメック星にはまだまだ気になることがあります。例えば、「アジッサ」という樹木。上の方だけ丸く葉がついた、とてもユニークな樹形ですね。
熱帯雨林を形作る木はよくこういう形になります。深い熱帯雨林の中だとてっぺんの部分以外では光合成効率が悪いので。これはマレーシアの熱帯雨林に生えているクンパシアという木ですが、どことなくアジッサに似ていませんか。
クンパシアの木(Bobbean /Wikipedia)
たしかに。これも進化の結果と言えるのでしょうか。
異常気象に晒される前のナメック星は緑が豊かだったそうなので、森林だけに適応するような形に進化したと見ることもできます。植物進化学者としては、ピッコロが送り出される数百年前の森を想像すると、夢が膨らみますね。
ナメック星の過去と言えば、先ほど「ナメック星人の祖先」みたいな光合成するウミウシの話になりましたよね。あれは単細胞の藻類がウミウシに住み着いているのですか?
いえいえ、そこが面白いんです。あの葉緑体はもっとアグレッシブな由来を持つんですよ。「盗葉緑体」と言って、他の生物から葉緑体を奪い取る珍しい現象なんです。まるでセルみたいじゃないですか?
実はこうして他の生物から能力を取り込む生物は他にもいます。
例えば、キンメモドキ科の魚は深海で発光しますが、その際にエサとなるウミホタルのタンパク質を使います。消化せず、そのまま体内に取り込むんですね。
キンメモドキの群れ
たしかにこれは……セル! セルですね!
セルは相手の能力を取り込みますが、生みの親のドクターゲロはもしかするとこうした生命現象をモデルにしていたのかもしれませんね。
ちょっと室内で話すのも疲れたので、屋外の研究エリアを散歩してみませんか。
※奥山先生は普段筑波実験植物園(茨城県つくば市)で植物に囲まれながら研究している
え、いいんですか! 実は僕、この植物園の熱烈なファンで、年間パスポートを買って企画展をコンプリートしたこともあるんですよ!
それは光栄ですね。ちなみに「実験植物園」というおどろおどろしい名前ですが、栽培マンの研究をしているわけではありませんよ。
今回は通常入ることができない研究エリアにご案内しますね。
研究エリアの奥地、ビニールハウスの向こうに……
この鉢植え、眺めていると何だかピンときませんか。
なんでしょう……。何の変哲もない鉢植えですが……。
これはズミという植物を台木にしたりんごの近縁種(タカナベカイドウ)の接ぎ木(つぎき)なんです。進化とはまた違いますが、2つの個体が合わさって1つになるという側面で、接ぎ木はフュージョンに近いと思いませんか。
接ぎ木!……って驚いてみましたが、何千年も前から使われている技術じゃないですか。理屈の上ではフュージョンですが……地味すぎませんか。
いやいや,19世紀にはヨーロッパのブドウを害虫の被害から救ったこともある、すごい技術ですよ。アメリカ原産のブドウと接ぎ木して、害虫に強い種が生まれたんです。
合わさった個体が強くなる、という意味でもフュージョンに近い、と。
はい。それに、近年では注目すべき研究成果も出ていて。タバコをクッションとして中間台木に用いると、種を超えて接ぎ木ができるそうなのです。これまで同じ科に属する植物同士でしか接ぎ木できないと考えられてきたので、画期的な研究成果ですし、このメカニズムを生かせば、どんな植物でも一つの個体に融合させられる可能性もあります。
ええーー! とんでもないですね! ドラゴンボールに例えると、ピッコロとフリーザと魔人ブウとミスター・サタンがフュージョンするみたいな。
編集部
最後、ミスター・サタンを出す必要ありましたか。
以上,ドラゴンボールキャラクターと進化の関係について,奥山先生にズバッと切り込んでいただきました。
サイヤ人編以降,SFの要素がぐっと強まるドラゴンボールですが,ファンタジックな面も残しつつ、科学の観点から読めるのが素晴らしい点の一つ。
ドラゴンボールを読んだ子どもたちが、ブリーフ博士のような科学者になる日が来るかもしれません!
奥山先生は取材当日、私物の原作コミックスを持参してくださった
このサイトは機械翻訳を導入しています。わかりにくい表現があるかもしれませんが、ご了承ください。
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