2022.03.10
1986年2月に放送が始まったアニメ・ドラゴンボール。初代オープニングテーマとなった『魔訶不思議アドベンチャー!』は、ドラゴンボールを象徴する一曲として世界中で親しまれています。
「つかもうぜ! ドラゴンボール」——。
放送当時、あの燃えさかる太陽のシーンから始まるオープニングテーマを毎週心待ちにしていた人も多いのではないでしょうか。
その歌い手である高橋洋樹さんは、当時なんと20歳。2021年には歌手生活35周年を迎えました。バンドでデビューすることを夢見ていたロック青年の人生は、「『魔訶不思議アドベンチャー!』を歌ったことで大きく変わった」と振り返ります。
高橋さんはどのようにしてこの曲と出会い、向き合ってきたのでしょうか。そして、世界中のファンの前で歌い続ける現在の思いとは——。
※取材は新型コロナウイルス感染症の予防対策を講じた上で実施しました
語り手:高橋洋樹さん
1965年生まれ。1986年にアニメ・ドラゴンボールの主題歌『魔訶不思議アドベンチャー!』でデビューし、大ヒット。ドラゴンボールでは挿入歌の『ドラゴンボール伝説』や『めざせ天下一』『青き旅人たち』も担当。その後はロックバンド・COME ON BABYのボーカルとして活動し、さまざまなジャンルでの作詞・作曲も手掛けた。1994年ごろから音楽活動を離れていたが、2004年以降活動を再開。ヨーロッパやアメリカなど世界各国で行われるコンサート『ドラゴンボール シンフォニックアドベンチャー』をはじめ、数多くのアニソンライブに出演している。ドラゴンボールで特に好きなキャラクターは桃白白(タオパイパイ)、「柱に乗って移動するシーンが最高にクール」。
・聞き手:多田慎介
1983年生まれのフリーライター。四人きょうだいの末っ子。兄たちの影響で、物心ついたころにはアニメ『ドラゴンボール』を毎週欠かさず見るようになっていた。好きな敵キャラクターはサイバイマン。
ーー『魔訶不思議アドベンチャー!』でデビューされたときは20歳だったと聞いて、「そんなに若い人が歌っていたんだ……」と驚きました。
高橋:僕は当時、全くの素人でした。レコーディングも『魔訶不思議アドベンチャー!』が初めてだったんですよ。
ーーどのような経緯で『魔訶不思議アドベンチャー!』を歌うことになったのでしょう?
高橋:この曲でデビューする前年、YOKOHAMA HIGH SCHOOL HOT WAVE FESTIVAL(※1)というコンテストにバンドで参加して賞をいただいたんです。その際に声をかけてくれた事務所があって、バンドメンバーとともに所属しました。
当時、そのコンテストの模様はフジテレビで放映されていました。後から聞いた話では、『魔訶不思議アドベンチャー!』のレコーディングにあたってオーディションをしていたものの適任者が見つからず、事務所が僕の資料を送ったところ、「高橋でいいじゃないか」ということになったようです。
(※1)高校生が運営する高校生のためのバンドコンテストとして、1981年から1998年にかけて横浜で開催されていたイベント。「音楽の甲子園」とも呼ばれていた。
ーー『魔訶不思議アドベンチャー!』にぴったりの歌い手として抜てきされたのですね。レコーディングの際には、プレッシャーも大きかったのでは。
高橋:そうですね。レコーディング当日は、スタジオに発売元の日本コロムビアだけでなく、アニメ制作側のスタッフがたくさん集まっていました。
メディア関係者の数にも驚きましたね。週刊少年ジャンプで連載されている人気作品がアニメ化されるとあって、取材も多かったんです。
それまでの僕は、下町の八百屋さんでアルバイトをするロック青年。そんな素人が、スタッフに囲まれ、たくさんのカメラのフラッシュが光る中でスタジオへ入るわけですから、緊張しなかったといえば嘘になります。
それでも心の中では「そんなの関係ねえよ」なんて威勢を張り、思いきってレコーディングに挑みました。今思えば、素人だったからこそなんとかなったのかもしれませんね。失うものもありませんでしたから。
ーーレコーディング以降、高橋さん自身にはどのような変化がありましたか?
高橋:ほとんど変わりませんでした。
僕は、ドラゴンボールの第1回のアニメ放送を見るまで半信半疑でした。「本当に俺がオープニングテーマを歌うの?」って。「もしかするとドッキリかもしれない」とも思っていましたね。こんな無名の若者にドッキリを仕掛けるはずなんてないのに(笑)。
だから、第1回放送日である1986年2月26日の水曜日のことはよく覚えているんですよ。
当時アルバイトしていた八百屋さんの向かいには焼き鳥屋さんがあり、そこには14型のテレビが置いてありました。ブラウン管の、ダイヤルを回すタイプの懐かしいテレビです。19時が近づき、バイトが終わりかけだった僕は、店主の親父さんに「俺の歌がテレビで流れるんで見てきていいですか」と断って焼き鳥屋さんに飛び込みました。
そうしたら、あのオープニング映像に僕が歌う『魔訶不思議アドベンチャー!』が流れて。ああ、本当だったんだなって
焼き鳥屋のおかみさんに「これ、俺が歌ってるんですよ」と言ったら、「またまた〜。冗談ばっかり」なんて笑われましたけどね(笑)。
ーー向かいの店のアルバイトの人がアニメの主題歌を歌っているなんて、にわかには信じられませんよね(笑)。周囲の人たちはその後、高橋さんへの見方が変わったのでは。
高橋:それが意外とそうでもないんです。僕は、周囲には『魔訶不思議アドベンチャー!』を歌っていることをほとんど吹聴しませんでした。デビュー後には事務所がある横浜で一人暮らしを始め、孤独な貧乏バンドマンとしてマイペースにバンド活動を続けていたので、周りの変化はほとんど感じませんでした。
ただ、夏の暑い日にアパートの窓を開きっぱなしにしていたら、外から『魔訶不思議アドベンチャー!』を歌う子どもたちの声が聞こえてきて……。あの瞬間は感動しましたね。
ーー高橋さんの音楽の原点についてもお聞きしたいです。
高橋:10代のころにヘヴィメタルに魅了されました。いわゆるNWOBHM(ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィメタル)のムーブメントの中、70年代にアイアン・メイデンにハマり、ホワイト・スネイクを聴き、バッド・カンパニーやフリーへとさかのぼり……。80年代にはヘア・メタルの波がやって来て、ラットやボン・ジョヴィ、ガンズ・アンド・ローゼスなどを追いかけていました。
ずっと洋楽のハードロック系が大好きです。ギターが歪(ひず)んでいない音楽は、未だにあまり聴きません。
ーーまさにロックにどっぷりと浸かっていたわけですね。一方でアニメの主題歌を歌うとなると、一気に大衆性を帯びてくるように思います。当時の高橋さんに心境の変化はありましたか?
高橋:戸惑いが全くなかったとは言えません。
それまでの僕は「ロックスターになりたい」という思いで曲を作り、バンド活動をしていたので、当初の目標とかけ離れているような気もしていました。
それでも、大きなチャンスをいただいたことはとてもうれしかったですし、率直にありがたかったです。ドラゴンボールの主題歌を歌ったことは大きな自信につながりましたし、その後のバンド活動でも「あの人ね」と認知してもらえるようになりました。だから後悔は全くしていないんです。
ーーレコーディングの過程でも、戸惑いが消えていく瞬間があったのでしょうか。
高橋:とにかく楽曲が魅力的だったんですよ。『魔訶不思議アドベンチャー!』は打ち込みを多用していますが、メロディやリズムには非常にロックの要素を感じました。
ーー『魔訶不思議アドベンチャー!』の、ロックを感じる部分はどんなところですか。
高橋:はい。いくつかポイントがあります。
まずは冒頭の「つかもうぜ!」というフレーズ。僕は当初、「つ・か・も・う・ぜ」と、跳ねた感じで短く歌っていたのですが、レコーディングでは作曲の池毅(いけたけし)先生も同席していて、「あまり跳ねすぎずに」「だけど歯切れ良く」と注文されました。着地するまでは何度も歌いましたよ。
あとはBメロの最後、「雲のマシンで 今日も飛ぶのさ〜」と音程を上げていくところですね。ここは段をつけずに音程を上げるロックっぽさを強く意識しています。
個人的に最も気に入っているのはサビの「Let’s try try try」とシャウトするところ。僕がずっと追いかけていたロック・シンガーのように、高音域で自然とオーバードライブする(歪む)ように歌っているんです。
ーー『魔訶不思議アドベンチャー!』は今や、日本のみならず世界中のファンに愛される曲となりました。高橋さんはオーケストラと共演するイベント「ドラゴンボール シンフォニックアドベンチャー」(※2)に出演し、フランスやスペインでも歌っています。
高橋:オーケストラをバックに歌うこと自体、僕にとっては夢のようなことでした。こうしたインタビューで「歌手として実現したいことは?」と聞かれるたびに、「オーケストラで歌ってみたい」と答えていたので。
会場に行ってみると、オーディエンスは想像以上の盛り上がりでしたね。
「シンフォニックアドベンチャー」では、約70人のフルオーケストラの後ろに大きなスクリーンがあり、アニメーションとシンクロして演奏します。ドラゴンボールの名場面が映し出されるとオーディエンスの盛り上がりが一気に高まるんです。
(※2)ドラゴンボールの歴代主題歌を歌うアーティストとオーケストラが共演し、ヨーロッパやアメリカなど世界各国で開催されているコンサートイベント。今後はイギリスでも開催予定。
ーー海外のファンが特に盛り上がるシーンは?
高橋:『ドラゴンボールZ』の中で、クリリンがフリーザに殺されてしまい、悟空が初めてスーパーサイヤ人になるシーンです。その場面が来ると、フランス人やスペイン人が悟空と一緒に日本語で「やめろー!」と叫ぶんですよ。
会場には、超サイヤ人に変身したときの「シュワシュワシュワ……」というあの音が特殊音響で流れます。もう、言葉では言い表せないくらいの盛り上がりです。
ーー海外でもドラゴンボールが熱狂的に愛されていることが伝わってきます! 高橋さんは、なぜドラゴンボールが国境を越えてここまで受け入れられているのだと思いますか
高橋:ドラゴンボールには、無国籍・無世代の面白さがありますよね。日本の作品だけど日本人じゃなければ理解できない世界観ではなく、時代性も一切関係なく楽しめる。だからこそ海外でも愛されるのだと思います。
個人的な感覚では、ストーリーはもちろんのこと、それ以上にバトルシーンに惹かれる人が海外には多いような気がします。バトルとともに友情や勇気、挑戦といった普遍的なテーマが丁寧に描かれていることで、多くの人を熱狂させるのではないでしょうか。
ーー1986年に初めて『魔訶不思議アドベンチャー!』が発表されて以降、高橋さんはいくつかのリミックスバージョンもリリースしていますね。ご自身のお気に入りのバージョンはありますか?
高橋:『魔訶不思議アドベンチャー!』は、自分の曲であって自分の曲ではないような感覚があるんですよね。制作に関わったスタッフみなさんのもの、というか。
リミックスの話が来ても自分だけの曲だとは思っていないので、自分の声についても注文は一切出しません。ニーズがあれば、その通りに僕の声を使っていただきたいと思っています。
ーー高橋さんは2022年2月開催の「ドラゴンボールゲームス バトルアワー2022」(※3)に出演されましたが、収録にはどんな意気込みで参加しましたか?
高橋:ここ2年近くは新型コロナウイルスの影響で人前に出て歌う機会が減っていました。そんな中、すごいスタジオで歌わせていただくことになり、緊張しました。
キーは原曲のままで歌っていますが、20歳のときのオリジナルとはまた別物になっていると思います。僕なりに一生懸命歌いましたので、温かい目で見て楽しんでいただけるとうれしいですね。
(※3)2022年2月19日(土)・20日(日)に開催。マンガ・アニメーション・映画・ゲーム・フィギュア・玩具の魅力的な最新コンテンツを詰め込んだ全世界同時配信型オンラインイベント。ユーザーは自身のアバターで「オンラインアリーナ」に参加でき、ハーフタイムショーでは高橋洋樹さんが登場して『魔訶不思議アドベンチャー!』を披露した。高橋さんのライブシーンは5:58:40~より。
ーー原曲キーのまま歌い続けているんですね。
高橋:はい、もう大変ですよ(笑)。
オリジナルは今、自分が聴いても、驚くほど若くて元気。あんな風に歌える期間はそんなに長くないのかもしれません。それでもアニメソングという特性上、僕はなるべく同じように歌い続けていきたいんですよね。当時の『魔訶不思議アドベンチャー!』を大切に思ってくれる人たちがいる限りは、同じように歌い続けたいです。
その意味では、「シンフォニックアドベンチャー」や「バトルアワー」といった舞台に立つ機会をいただけていることは本当にありがたいことだと思っています。こうした場が大きなモチベーションとなり、練習を続けられるので。
ーー今後も世の中はなかなか高橋さんを休ませてはくれないと思いますが、どんなふうに『魔訶不思議アドベンチャー!』を歌っていきたいですか?
高橋:僕が原曲を忠実に再現できるよう努力していくことが第一です。加えて、今後は若いアーティストとコラボしていけたらいいなとも考えています。
ーーそれは見てみたいです! 改めて、高橋さんにとっての『魔訶不思議アドベンチャー!』とは?
高橋:『魔訶不思議アドベンチャー!』に出会えなければ、僕の人生は全く別のものになっていたでしょうね。
小さかった悟空が大人になったように、僕も僕なりに、音楽人生の中でアドベンチャーをしてきたつもりです。一時期は音楽の現場を離れたこともありましたが、「もうやめました」とは一度も言いませんでした。どんな状況でも、もうやめたので歌いません、とだけは言いたくなかったんです。
歌うことが好きで、音楽が好きな気持ちは一切変わらないので、オファーがあれば何でもやろうと思っています。そんな僕と音楽をつなぎ続けてくれているのが『魔訶不思議アドベンチャー!』という曲です。
だから僕はこれからも、この曲を真摯に歌い続けていきます。
写真:鶴田真実
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