2022.02.17
ドラゴンボールファンの皆さんこんにちは。ライターの榎並です。
ドラゴンボールのフィギュアは発売以来、造形や色彩などの進化を続けながら、多数の商品が作られてきました。
現在ではおもちゃ売り場だけでなく、ゲームセンターのクレーンゲームの景品、主にコンビニで買える「一番くじ」など、いたるところでハイクオリティなフィギュアを目にします。
クレーンゲーム用景品のフィギュア
その歴史を語る上で欠かせないのが、フィギュアの原型を作る「原型師」の存在。職人気質なイメージが強く、あまり表に出てくることのない彼らはどんな思いやこだわりを持って製作にあたっているのでしょうか。今回は長きにわたりドラゴンボールフィギュアの原型を手掛けてきた中澤博之さん、加藤蓮さん、そして彼らと仕事をするフィギュアプロデューサーの阪田典彦さん、クリエイティブディレクターの渡辺雄介さんを招き、対談を実施。
知られざる原型師の仕事やデザイン・製作過程などの変遷について、4人がメインで担当してきたジャンルで、フィギュアの中でも比較的身近な「一番くじ」やクレーンゲームの景品であるプライズフィギュアを中心にたっぷり伺いました。
――阪田さんは「フィギュアプロデューサー」、渡辺さんは「クリエイティブディレクター」、中澤さん、加藤さんは「原型師」ということですが、ドラゴンボールのフィギュア製作ではそれぞれどんな役割を担っているのでしょうか?
株式会社BANDAI SPIRITS フィギュアプロデューサー・阪田典彦さん
阪田典彦さん(以下、阪田):私はクレーンゲーム景品(プライズ)のフィギュアなどの企画・開発を担当してます。仕事の進め方としては、まず「こういうフィギュアを作ろう」というコンセプトを考え、それに沿った絵をプロのイラストレーターさんに描いてもらいます。その後、版権元である東映アニメーションさんと集英社さんへの版権許諾、製造工場への見積もりをとった上で、原型師さんに絵を渡して発注するという流れですね。ざっくり言うと、企画から生産までを管理・コントロールするのが主な役割です。
株式会社WATANABOX クリエイティブディレクター・渡辺雄介さん
渡辺雄介さん(以下、渡辺):僕は外部のフィギュアプロデューサーとして関わっています。主な役割はBANDAI SPIRITSさんと原型師さんの間に入って、納期とクオリティをコントロールすること。フィギュアの腕や首の角度、髪のカタチといった細かい部分の調整など、よりカッコよくなるように原型師さんと二人三脚で仕上げていきます。阪田さんのOKが出たら、自分で原型の塗装(色彩)をして納品するところまでが仕事です。
原型師・中澤博之さん
中澤博之さん(以下、中澤):原型師とは、阪田さんや渡辺さんのようなプロデューサーから依頼を受けて、工場でフィギュアを量産する際に必要な「原型」を作る仕事です。僕は手を使って造形する「手造形」専門の原型師です。素材には、主に手で加工しやすい樹脂粘土を使っています。
原型の例。「型」ではなく、原型を作る
アマチュア時代も含めると40年くらいフィギュアをいじっているけど、プロの原型師になったのは20年前ですね。海洋堂(※)から初めてドラゴンボールの仕事をもらったのがきっかけです。
※海洋堂……大阪府門真市に本社がある模型製作会社。世界屈指の高い造形技術で知られる。
原型師・加藤蓮さん
加藤蓮さん(以下、加藤):僕の場合、もともとは中澤さんのように手造形でしたが、ここ5年くらいでデジタルに移行しました。CGで造ったデータを3Dプリンターで出力しています。実は僕も、もともと海洋堂で原型師をしていて、デビュー作がドラゴンボールだったんです。
――中澤さんと加藤さんはBANDAI SPIRITSから出るドラゴンボールフィギュアのほとんどに関わっているそうですね。
阪田:このお二人がいないと、僕らの仕事は成り立ちません。とにかくうまくて、しかもめちゃくちゃ仕事が早い!
渡辺:一度、加藤さんに製作をお願いした大量の原型をドーンとBANDAI SPIRITSさんに納品した時、納品までの早さに阪田さん引いてましたもんね。「このスピードはあり得ない……。どうなってるの?」って(笑)。
阪田:加藤さんは作業を複数人で分業されているのですが、それにしても他の会社さんと比べて納期が3倍くらい早いんですよ。例えば、通常三ヵ月かかるものを一ヵ月で仕上げるほど。その早さたるや、界王拳レベルです。ただ、他の会社さんや若い原型師さんはそれを基準にしないほうがいいと思います。加藤さんが異次元過ぎるだけなので。
ーー加藤さんはなぜ、そこまで早く仕上げられるのでしょうか?
加藤:自分では分からないですね。いただいた仕事をとにかくこなしているだけです。うちが早いというのも、渡辺さんたちに言われるまで知りませんでした。
阪田:一方の中澤さんはというと、“手造形の神”です。手造形で中澤さんを超えるクオリティとスピードの方はなかなかいないと思います。あと、中澤さんはジオラマの技術もすごい。2次元で書かれた元絵を立体的なデザインに落とし込む腕は、日本でトップクラスではないかと。元絵をそのまま立体にすると、造形の面で不自然な部分が出てしまうもの。ただ中澤さんが作る原型は、見事にバランスがとれた美しい造形なんです。
中澤:そう言ってくれるのはうれしいですね。けど、ドラゴンボールの世界と同じく上には上がいますよ(笑)。
――お二人とも謙虚ですね。でも、そこも職人さんぽいというか。ちなみに、ドラゴンボールフィギュアの原型を手がける上でのこだわりはありますか?
中澤:あまり写実的になりすぎないように意識しています。漫画やアニメは勢いやカッコよさを重視して描かれている部分もあるので、筋肉の形や服のシワなどがリアルな造形とかけ離れている場合もあります。でも、それらをいかに違和感なく立体として成立させるかが、僕たち原型師の腕の見せ所ではないかと。洋画に対する浮世絵のように、日本の漫画にはデフォルメされた面白さがある。そうした魅力をいかに損なわずに表現するかは、常に考えていますね。
中澤さんが製作された悟空のフィギュア。天下一武道会の会場の遠近をデフォルメした立体的な表現は手造形ならでは(画像のフィギュアは「ドラゴンボールセレクション」というコレクション系フィギュア)
加藤:僕も中澤さんとほぼ同じですね。油断するとリアルになってしまうので、アニメのファンにちゃんと納得してもらえるような原型を作ること。その上で、いかに破綻せず3Dに落とし込むかに集中しています。
加藤さんが製作されたブロリーの一番くじフィギュア。各パーツごとにデジタルデータ(3Dデータ)を作成し、組み合わせている。髪の毛だけでも3つのパーツに分かれている
渡辺:ただ、いくらアニメやゲームの躍動感を意識するといっても、やっぱり鳥山先生の原作を知らないとドラゴンボールらしいフィギュアは作れませんよね。
中澤:もちろんそうだね。
渡辺:例えば原作では悟空のブーツの踵(かかと)の部分が、少し内側に入り込んでいるように描かれていることが多いんです。リアルな造形であれば踵の部分は外に出ているべきなのにあえてそのように描写されている。だからこそ、そうした細部をちゃんと再現しないとドラゴンボールのフィギュアとは言えないんじゃないかと思ってしまいます。
確かに悟空のブーツの踵部分が内側に入り込んでいるように見えるが……
フィギュアでもほんの少しだが、踵部分が内側に入り込んでいる
中澤:踵が内側に入り込んでいるのは、鳥山先生が考える「絵としての絶妙なバランス」だと思うんですよ。そんなの、原作の絵を舐めるように見ていないと気付かないよね。でも、そういう細部まで三次元に表現するのが面白いんです。僕はたぶん、先生の絵を世界一まじまじと見ている原型師だと思いますよ(笑)。
『DRAGONBALL超画集』のイラスト(画像左)を中澤さんがフィギュア化。イラストだけでは判然としないバックのデザイン、恐竜の筋肉、サイズ感などはドラゴンボール作品の他、多くの文献を参考に製作したそう。鳥山作品の世界観を忠実に再現する中澤さんの神業が光る作品(画像のフィギュアは「デスクトップリアルマッコイ」というコレクション系フィギュア)
――最近はゲームセンターのクレーンゲームやコンビニなど、さまざまな場所でドラゴンボールのフィギュアが手に入ります。現時点で、どれくらいの種類が発売されているのでしょうか?
阪田:正直、数が多過ぎて僕自身も把握しきれていません。
おもちゃ売り場などで買えるプラモデルや可動・無可動フィギュア、コンビニなどで購入できる一番くじや食玩、ゲームセンターで手に入るプライズ景品、その他にガシャポンなどドラゴンボールのフィギュアを作る部署だけでも社内にたくさんありますね。
――いずれのフィギュアも昔に比べて、クオリティがかなり上がっているのではないでしょうか?
阪田:そうですね。そもそも、ドラゴンボールのフィギュアが初めて発売されてから35年以上経ちますからね。技術やツールも著しく進歩していると思います。
――確かに。一消費者の肌感覚でも「昔に比べて精巧になったな」と感じる機会が多いです。具体的に、どのような歴史をたどって進歩したのか教えていただけますか?
阪田:ドラゴンボールフィギュアが初めて世に出た1980年代は、色を塗ってみたり、デフォルメをしてみたりと、作り手も「試行錯誤」を繰り返していたようです。
これは僕の想像でしかないのですが、当時の原型師さんにとってドラゴンボールってめちゃくちゃ難しい作品だったと思うんですよね。筋肉の形一つとっても特殊で、他のアニメ、漫画作品よりもカクカクとした面で構成されているんです。悟空の逆立った髪型も、どう作るのが正解なのか、原型師さんはかなり苦心されたんじゃないでしょうか。
中澤:確かに、ヤジロベーの髪型とかめちゃくちゃ難しかったですよ。
阪田:でも、そうした先人たちの試行錯誤を経て、90年代ではフルカラーのフィギュアが増えていきます。ただ、まだまだ筋肉の質感や髪型などの表現の幅に制約もあり、原作やアニメの造形に近いフィギュアはなかったですね。個人的にはこの時代のフィギュアも手仕事らしさがあふれていて大好きですが。
そして2000年代あたりから、一気にクオリティが上がったように思います。僕は2002年入社なのですが、その頃から版権元の承諾を受けやすくなって、商品の点数が増え、フィギュア製作に関わる人や製作にまつわるノウハウが増えたことも大きいですね。
――でも、その頃のプライズフィギュアはまだ、質・量ともにそこまで充実していなかったですよね?
阪田:そうですね。僕は入社当初からプライズ担当だったので、まずはいろんな原型師さんとひたすら会って「こんなフィギュアを作りたいんです」という話をしていました。入社7年目くらいまではほとんど会社にいなくて、原型師さん集めに奔走していましたね。
そのうち僕らなりの正解が見えてきたのと、何より中澤さんのような素晴らしい原型師の方々とつながれたことで、プライズフィギュアのレベルが一気に上がっていきました。
同時に、商品の生産をお願いしている工場側の技術も進化して、「表現できること」の幅が格段に広がったことも大きいです。
写真奥は93年に発売された「ザベストオブDBZ」。400mmの比較的大きなフィギュア。写真手前は91年に発売された可動フィギュア。布製の道着を着せることができる
ボタンを押すと髪が光り、音が鳴るフィギュア「激闘音声」。2008年に発売
左は92年に発売されたソフビ製のフィギュア。右は2014年に発売された一番くじのフィギュア。顔の表情をはじめ服のシワ、筋肉の質感などが原作のデザインに近づいている。また、この20年の間で彩色に使用する色の幅が増えたこともうかがわせる
画像では分かりづらいが、生産工場の技術進歩によって肌と青のインナー、オレンジの道着の間にそれぞれ隙間を作ることが可能に。これにより影が生まれ、よりリアルな服の質感を再現できた
――阪田さんはその後、原型の技術を競う「造形天下一武道会」「造形王頂上決戦」を開催するなど、原型師さんをフィーチャーした企画も仕掛けていますよね。
阪田:やはり僕らは原型師さんがいなければ何もできません。そんな職人の凄さを世に広めたい思いもありましたし、業界全体の底上げや知られざる実力者と出会いたい気持ちもありました。
2020年に発売された「造形天下一武道会3」でファン投票1位に輝いた原型師・山下マナブさん製作のフィギュア(アミューズメント一番くじフィギュア)。無数に入っている服のシワから風にたなびく腰紐や髪の毛の表現など、細部までこだわって作られている
――これからも、新しい原型師さんの発掘は続けていきますか?
阪田:それは常に。それこそ今はデジタルで場所を選ばず、全国各地の職人と仕事ができます。これからは日本だけでなく、世界の原型師さんと出会いたい思いもありますね。海外の職人にとってドラゴンボールのフィギュアは憧れで、すごい熱量を感じます。
あと、これを言うと会社から怒られちゃうかもしれないけど……。
――なんですか?
阪田:今はバンダイだけがドラゴンボールフィギュアを製作している状態なので、いったんそれを手放して、いろんな会社や職人が作れるようにしてもいいんじゃないかと。そして、4年に1度くらいフィギュア製作に関わる人たち全員が集って「最強の悟空」を決める大会を開くとか。そうすれば、もっと業界全体のレベルが上がっていくような気がします。
――それは……ワクワクしますね。
阪田:実現したら、めちゃくちゃ面白いものが見られるんじゃないかと思いますね。
――今後、みなさんが個人的に作ってみたいフィギュアがあれば教えてください。
加藤:私は漫画連載初期の山賊だった頃のヤムチャ。あの頃のほのぼのとした原作の雰囲気も好きなので、いつか作ってみたいですね。
渡辺:原作でもアニメでも、「まだ誰も見たことのない状況」を作ってみたいですね。例えば、「破壊神の力を手に入れたベジータ」と「身勝手の極意の悟空」が対になるようなポーズとか。
中澤:僕はあと何年できるか分からないけど、引退までにジオラマをあと2〜3個は作りたいですね。キャラクターじゃなくて情景やメカが主役になるようなものを。あとは、衣装を布で作ったり、ゴーグルに本当のガラスを入れてみたり、素材に凝ったものも作りたいです。すごくお金がかかるから受注生産レベルになっちゃうと思いますけどね。
――三者三様で面白い。どれも見てみたいです。では最後に阪田さん、いかがですか?
阪田:ドラゴンボールってフィギュアとしては後発で、実はまだそれほど歴史が長くないんです。今でこそたくさんの種類が出ていますけど、みんなが「これだけは集めている」というド定番のシリーズはまだ存在していないように感じます。
例えば、ガンダムでいえばガンプラという絶対的な商品があるじゃないですか。ドラゴンボールでもガンプラのように長きにわたって愛され、多くの人がコレクションするようなシリーズを生み出すことが今後の目標ですね。
原型師の中澤さんと加藤さん、そして渡辺さんが2月19日開催の「ドラゴンボールゲームスバトルアワー2022」で特別なフィギュアを製作!
製作の裏側を映像で見られます。
「神原型師」の技を知りたい方はこちらをチェックしてみては?
取材・文:榎並紀行(やじろべえ)
撮影:小野奈那子
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