2025.01.24
ロボットに乗る、それは人間のロマンです。これまでさまざまな作品でそんな「搭乗型ロボット」は描かれ、そのうちの一つが、ドラゴンボールに登場する「ピラフマシン」です。
丸っこく愛らしいデザインながら火炎放射器やミサイルが搭載され、合体もできる、という多機能なこのロボットは、作中でピラフ大王自らが開発したと紹介されています。
ピラフに追いつけとばかりに、現代の日本においても搭乗型ロボットの開発が急ピッチで進められています。その代表例が、2023年にツバメインダストリ社が発表した「アーカックス」。
全長4.5m、総重量3.5トンの堂々たる体躯を、ジョイスティックとペダルで操縦でき、4輪走行の「ビークルモード」にも変形させられる、というロボットアニメの世界が現実になったような製品です。お値段、なんと4億円!
今回、そんな夢のあるロボットを開発した同社の吉田龍央(りょう)社長とともに、ピラフマシンのスペックを徹底分析。漫画のワンシーンを考察しつつ、「合体ロボ」の実現可能性についても掘り下げてみました。
吉田龍央さん:ツバメインダストリ株式会社CEO。1998年生まれ。神奈川県出身。鉄工所を営む祖父の影響で幼い頃から機械に慣れ親み、大学でロボットハンドの技術を学ぶ。在学中の2019年に筋電義手などを製造する株式会社ALTsを創業し、自らも開発者として事業に邁進する傍ら、かねて目標としていた巨大ロボットの製作に乗り出すことを決意、2021年8月にツバメインダストリを創業。
――搭乗型ロボットの開発も経験された吉田さんに、まずはピラフマシンの見た目や機能についての率直な感想をお聞きしたいです。
吉田龍央さん(以下、吉田):率直な感想としましては足が細いなと思いました。ミサイルや火炎放射器など、さまざまな兵器が搭載されたボディをこの細さの足で支えられるなら、外装材は相当薄くて軽い素材のはず。しかも、蹴っ飛ばされてもボディ自体は破損していませんから割と頑丈です。
細い足が特徴的なピラフマシン
ここまで軽くて頑丈な素材は今の地球上に存在しないでしょうね。私たちの知らない素材でできているのでは、と思います。
悟空のキックを受けても壊れない
――たしかに、そもそも重量が軽くないと、この細い足でボディを支えられないですよね。
吉田:ロボット作りの難しさは、まさに重量をどう考えるかにあります。高さが2倍になれば断面積は4倍、体積は8倍になりますから、重量もその分増えていきます。アーカックスは3.5トンですが、この重さを2本の足で支えると相当な負荷がかかるんです。さらに、僕らは搭乗者の安全を何よりも優先するので、転倒しないよう安定性も考慮しなければなりません。全長4.5mのアーカックスが倒れるのは大型トラックの横転事故みたいなものですからね……。
――デザインについてはいかがでしょう。アーカックスは直線的なデザインですが、ピラフマシンは丸みを帯びているのが特徴です。
吉田:最近、トポロジー最適化という設計手法が登場しました。これは、素材をどのように配置すれば最適な構造になるのかを自動で計算するコンピュータベースの設計手法なのですが、この手法を使うと、このように流線型で丸みを帯びたデザインが出力されるんですね。
トポロジー最適化によって設計されたデザイン
――一般的なロボットとは違って、表面が丸いですね。
吉田:これできちんと強度も担保されているんですよ。ロボットを含む既存の機械のほとんどは、丸みを作るのが難しい、という技術・素材的な制約から、直線と面で設計されています。でも、この設計だとムダが多く「過剰に重く、過剰に頑丈」になってしまうんですね。一方、AIで最適化されたデザインはそうしたムダが削ぎ落とされます。より生物に近づく、と言えば分かりやすいでしょうか。
――たしかにこの丸みは生物っぽい。そう考えると、生物の身体って実はものすごく合理的に設計されているんですね。
吉田:そうなんです。ピラフマシンのこのデザインは、そういう構造の最適化が進んだ結果なのかもしれません。
あと、生物との比較で言うと「視野」も気になりました。人間は歩く時、無意識に周囲を見て安全確認しています。歩きスマホをすると転びやすいですよね。アーカックスに乗ってみると分かるのですが、「下や後ろに何かあるんじゃないか」と不安になってきます。だから、視野の確保は搭乗型ロボットの開発において重要なトピックです。しかし、ピラフマシンの視野はパッと見たところ、前面の窓だけで外部カメラもありません。 後方の視点をどう確保しているのか気になりますね。
ちなみにアーカックスには、外部カメラが計9か所設置されています。
――なるほど。視界の確保は、ロボットをスムーズに動かす上で大事ですよね。あと、ピラフマシンはレバーで操縦するタイプのようですが、ここはアーカックスと共通しているでしょうか。
レバーを持って操縦しているように見える
吉田:そうですね。ただ、レバーの操作だけで複雑な動きを出すのは、とても難しいんです。一般的に、レバーには「位置」と「速度」を制御する機能がありますが、細かい動作になればなるほどレバーを倒す速度や角度を細かく調整しなければなりません。このコマのように、人間の手のように何を掴むという動作をレバーの操作で再現するのは難しいでしょうね。
――ピラフの乗っている機体は人差し指で指差したりしていて、かなり緻密に動かせそうですね。
吉田:アーカックスも5本の指がついていて、ピースさせたりボタン操作でプリセットしたポーズを再現したりできます。
アーカックスも操縦に慣れてくると指を細かく動かせる
ただ、人間のように無限にパターンを作れるわけじゃありません。その点、ピラフマシンは、驚いた時に手がガバッと開くなど、人間に近い動きをしていますよね。神経接続(編注:脳とロボットをつなげ、脳波などでロボットを動かす仕組み)など人の意思に限りなく近い動きができる未来の技術が使われているのかもしれません。
――ピラフマシンは3体のロボットが合体する機能を持ち合わせた「合体ロボ」でもあります。この合体機能について、気になる点はありますか。
吉田:ロボットの開発者として気になったのは、3人のパイロットがいる中で操作の統制をどう取るかです。例えば、旅客機のようにオペレーターが分かれている乗り物は「機長と副機長の操作のどちらをどんな時に優先するのか」がシステム上決まっています。合体後のピラフマシンは、ピラフ大王の機体が頭の部分になっているので、操作の優先権はピラフにありそうですね。でも他の2人にも、ある程度の操作権限はあるかもしれない。
合体後の操作はピラフが優先?
――頭の部分にトラブルが生じたら、自動的に他の2人のどちらかに優先権が移るようなシステムは考えられますか?
吉田:そうですね、操作の優先権が自動的に割り振られるんじゃないかと思います。ちなみに、アーカックスの操作方法には、コクピットから操作するパイロット操作と遠隔操作の2種類があり、その切り替えはコクピットの中からしかできません。これはパイロットが中にいる状態で、外から操作権限が奪われるのを防ぐためです。
――合体後の構造も気になります。合体時、真ん中の大きな機体の足がたたんで格納されるので、中心部にはある程度空洞がありそうです。でも、そうなると、動力源をどこにどう積むのか気になりますね。
吉田:ドラゴンボールの世界では、エネルギーパックやバッテリーの小型化がかなり進んでいるんじゃないでしょうか。現在でも機械のバッテリーはどんどん小型化する傾向にありますしね。でも、兵器となるとまた話は別です。足長のタイプはミサイルも積んでいて、このボディのどこにそんなものを積めるのか不思議です。
――足長タイプは火炎放射器を搭載していますから、火薬や爆薬などのエネルギー物質を積む必要もありますね。
吉田:そうですね。この火炎放射器のノズルは合体時のコネクタにもなっているので、かなり万能です。しかも、尻尾や首のように動かせているので、神経接続で意思を直接反映させているのかな……。
――現代の技術で「合体ロボ」は実現可能なのでしょうか。
吉田:そもそも合体する意味は何かを考える必要があると思うんです。合体すればそれだけ重量も増え、安全対策のハードルも上がります。そんなことを言い出すと、ロボットに人が乗る意味はあるのかという話になるかもしれませんが……(笑)。
――でも、吉田さんは究極のところ、ロボットに乗りたいから、アーカックスのようなものを作っているんですよね。
吉田:もちろんです。そして、ピラフ大王も自らロボットを操縦する意義を見出しているんでしょうね。これだけ未知の技術がある世の中なら、無人のロボット兵器も作れるはず。怪我や死のリスクを考えたら、誰かを攻撃するためのロボットにわざわざ自分が乗り込む合理性はないはずです。ピラフさん、絶対ロボット好きですよ(笑)。きっと、話が合うと思うなあ。OSは何を使ってるのかとか、設計思想を夜通し語りあいたいです。
ピラフさんとは仲良くなれそうです、と語る吉田さん
――ロボットを操縦するロマンとか、そういう人の心の機微をピラフさんは持っていそうだと。
吉田:そうですね。ショベルカーのような建設機械もどんどん遠隔操作で動かせるようになってきているし、VRやAI技術もこれからますます発展します。人間にできることはロボットにもできる、という時代は案外早く訪れるでしょう。そういう時代には、人間のアイデンティティがより重視されるようになるはず。シンプルに、機械に人が乗って操縦することの価値や楽しさが再確認されると思うんです。
――合理性以外のことに価値が生まれるわけですね。合体もロマンがありますし、自ら合体ロボを設計し、自らロボットを操縦するピラフさんはAI時代の人の生き方を示しているのかもしれませんね。
吉田:そうですね。例えば、僕はマニュアル車に乗っているんですけど、オートマ車が主流の現代に、マニュアル車に乗る意味なんてないじゃないですか。でも、僕はガチャガチャとギアを動かしながら運転したい。
――人が乗るロボットを作っている人らしい意見ですね(笑)。
――そもそも吉田さんは、どうして搭乗型のロボットを作ろうと思ったのですか。
吉田:純粋に面白そうだから作ってみたいという単純な動機です。別会社(ALTs)でも、わずかな筋肉の動きで人の手と同じように動かせる義手の開発もしていて、根っからのロボット好きなんです。その根っこにはドラゴンボールをはじめとした作品の影響もあると思いますね。
今、2027年をめどにロボットのテーマパークを作る計画を進めています。そこでは実際にロボットに乗って、災害救助体験や、スポーツ形式の対戦をしてもらえるようにするつもりです。世界的には「ロボット=日本の文化」というイメージもあると思うので、そういう日本らしさを体験できる施設にしたいですね。僕らが目指すのは、サイエンス・フィクションならぬ「サイエンス・リアリティ」。想像上の産物を現実化させることです。
――ピラフマシンのような合体ロボットも、ぜひ実現してほしいです!
吉田:安全性がクリアできれば、ぜひ(笑)。
取材・文:杉本穂高
写真:関口佳代
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