2025.01.17
ドラゴンボールに登場するナメック語といえば、象形文字のような独特のデザインにパピプペポなどの半濁音が多用される発音など、ユニークな特徴を持つ言葉として知られています。
そのオリジナリティが考察意欲を駆り立てるのか、作品のファンだけでなく言語学者や少数言語が好きな人の間でも話題に上ることが多いそう。
ナメック語とは、一体どのような言語で、現実世界の言語と何かしらの共通点はあるのか。
今回は人気YouTuberグループ「QuizKnock」運営元の株式会社baton所属で、人工言語「シャレイア語」を開発したZiphil Shaleiras(ジーフィル・シャレイラス)さんとともに、そんな「言語としてのナメック語」を掘り下げます。Ziphilさんはなんと取材日までの短い時間で原作42巻を読破。インタビューでは、作品ファンも納得の鋭い考察が数多く飛び出しました。
Ziphil Shaleirasさん:人気YouTuberグループ「QuizKnock」運営元の株式会社baton所属。東京大学の友人・鶴崎修功(ひさのり)さんの誘いを受け、開発部門に加わる。さまざまな言語に精通し、人工言語「シャレイア語」を作成したことで知られる。また、古典ギリシャ語をはじめいくつかの自然言語を学習している。
――まずは、ナメック語についての率直な感想からお伺いしたいです。地球の神さま扮するファイター・シェンとピッコロ(マジュニア)が戦いのなかで会話をするシーンから見ていきましょうか。
Ziphilさん(以下、Ziphil):原作で初めてナメック語が登場する場面ですよね。私が注目したのは、それまで周囲の理解できる言葉で喋っていたシェンとマジュニアが突然ナメック語で話し始めるシーンです。実は現実世界でも、バイリンガルの人が日本語を話していたと思ったら突然英語に切り替えて話し出す、というシチュエーションはあり、「コードスイッチング」と呼ばれます。
――コードスイッチングは意図的に起こすものなんでしょうか? このシーンでシェン=神であることがマジュニアにバレるわけですが、コードスイッチングを通じてシェンが意図的にそれをバラしにいった、という可能性も考えられるかなと。
Ziphil:多くの場合、スイッチングのトリガー(きっかけ)はあるのですが、無意識のうちに起こることもあります。例えば、両親が違う言語を使っていて、日常生活のなかで頻繁に話す言語を切り替える場合。あとは、「故郷に帰ると方言が自然と出ちゃう」みたいな場合。
このシーンを読む限り、シェンは自分の正体をバラしにいったというより、自然とコードスイッチングしているように見えます。おそらく「マジュニアに心を読まれて虚をつかれた」のがトリガーになったのではないでしょうか。
――日常会話の中で使う言葉が切り替わる、みたいなシチュエーションを想像すると、2人のやり取りに親近感が湧いてきました。それでも、ナメック語はむしろ日常会話だとあまり使われない、という印象なのですがどうでしょうか。ドラゴンボールからポルンガ(ナメック星の神龍)を召喚する時など、特別なシーンで使われているイメージがあります。
Ziphil:そうですね。私もナメック語に対して、会話に使われることはありつつも、基本的には「典礼言語」に近いという印象を持っています。典礼言語とは宗教儀礼などに使われる言語で、カトリックにおけるラテン語、イスラム教における古典アラビア語(フスハー)です。
――なるほど。フリーザとナメック星人の会話では、ナメック星人が日常的にはナメック語以外の言語を話していることも明かされていますね。
Ziphil:はい。やはりナメック語はナメック星人にとっても特別な局面で使う言語なのではないでしょうか。ナメック星人が乗っていた宇宙船を再び動かすシーンでは「暗号的な役割」が与えられていますし、全体を通して「特別感」が強調されている印象です。
――ナメック語といえば、この特徴的な文字の形です。文字の形についても何か読み取れることはありますか?
Ziphil:鳥山先生が意識して描き分けていたかどうかは分からないのですが、シェンとマジュニアのバトルシーンで使われているナメック語の文字の形と、ポルンガに願い事をするシーンで使われているナメック語の文字の形が微妙に違っているんです。前者はシンプルな形、後者は複雑な形をしていますね。
シェンとマジュニアのバトルシーンで使われたナメック語
ポルンガに願い事をするシーンで使われたナメック語
――見比べたことがなかったのですが、本当ですね……!
Ziphil:あくまで推測ですが、これは「日常会話と儀式の違い」を表現しているのではないでしょうか。儀式の場では、歴史や形式を重んじて、漢字だらけのあえて堅苦しい表現を使うシーンもありますよね。例えば祝詞とか。
ポルンガはナメック星人にとって神のような存在だから形式ばった言葉遣いで、一方の神とピッコロは気心知れた仲なのでもう少し砕けた表現で、という使い分けがなされているのかな、と予想しました。
あるいは 「訛っているか、訛っていないかの違い」と解釈できるかもしれません。つまり、神とピッコロは地球在住歴が長いから「地球訛り」で喋っている。一般的に文字の形や表現は、その言語がたくさんの人に使われば使われるほど単純に、簡単になっていく傾向がありますから、ナメック星のナメック星人だけが使うナメック語と地球の言語と混ざったナメック語、つまり「地球訛り」が違っていてもおかしくはありません。
――文字の形の違いだけでそこまで読み取れるとは……。ナメック語の形をめぐっては、SNSなどで「彝(イ)文字(中国の少数民族の間で使われる文字)」と似ているという考察もなされていますよね。
彝文字の一部。Locoluis, CC0, via Wikimedia Commons
Ziphil:たしかに彝文字に似ている印象はありますが、彝文字は四角形をあまり使わないので、完全に一致しているとまでは言えない気もします。それよりも、先ほど説明したシンプルな形のナメック語は、アフリカ北西部でベルベル人が使う「ティフィナグ文字」に似ていると感じました。あとは丸と四角形が多いところはハングルも彷彿とさせますね。
ティフィナグ文字のアルファベット表記。Serg!o, CC BY 2.0 ES, via Wikimedia Commons
――たしかに似ている。そもそも、日本人の自分は「言葉」と聞くと漢字やひらがなを思い浮かべてしまうので、こういう文字の形で言語を作ろう、という発想に至らないのですが……。
Ziphil:物の形をマネたり再現したりして作る文字は「象形文字」と言いますが、ナメック語もそれに近いエッセンスを感じますよね。象形文字は文字の原始的な形態であり、現存する地球上の言語や、人工言語においてもよく使われています。
例えば「りんご」を表す文字が象形文字だとしたら、りんごの絵を描き、それをだんだん崩して作っていく、というプロセスで作るので、文字から文化を探りやすい側面もあります。ナメック語で「りんご」を表す文字が分かれば、ナメック星人にとってのりんごがどういうものなのかが分かるかもしれません。ただ、先ほどお伝えした通り、文字の形はどんどん簡略化されていくので、よく普及した言語だと、 もともとが象形文字だとしても物の形まで想像するのはなかなか難しかったりもするのですが……。
――言語から文化が見えるとは面白い。ナメック語で「神」を表す文字は公式の設定だと逆三角形なのですが、対象が崇高なわりに、ずいぶん簡単な形に落とし込まれてますよね。
『DRAGON BALL大全集7:鳥山明ワールド』(集英社、1996年)より引用
Ziphil:ナメック星人にとって、それだけ神は「身近にあるもの」なのではないでしょうか。私も言語と文化のつながりを大事にしていて、(自分が作った)シャレイア語も「言語作りを通じて私自身のものの考え方を残す」のがコンセプトなんです。
――使い方や文字の形以外だと、「音」にも着目したいですよね。
Ziphil:パピプペポの音が顕著に多いところが特徴でしょうね。父母のことを「パパ」「ママ」と呼ぶように、パ行とマ行は子どもが早い時期から習得しやすい言葉です。読者が発音しやすいよう工夫されているのかもしれません。
それ以外だと破裂音と言いますか、タ行、カ行などの音が多い印象です。「デンデ」とか「ネイル」とか。おそらく「ナメック星人の名前」もナメック語ですよね。
――たしかにそうでしょうね。
Ziphil:一方で「サ」「チャ」のような摩擦の音がほとんど見当たらず、そうした言語は非常に珍しいんです。調べたところ、地球上でも全体の8%くらいしかありませんでした。オーストラリアのアボリジニの言語などがそうです。つまり、ナメック語は音としては、アボリジニの言語に近いと言えるかもしれません。
そもそも、 ナメック語は「音の数」がかなり少ない印象です。子音は8〜10個くらいしかないのではないでしょうか。ただ、それ自体は不自然というわけではなく、ハワイ語など音数の少ない言語も現実に存在します。
――言語を作ったZiphilさんの立場から、同じくナメック語を作った鳥山明先生について何か思うところはありますか?
Ziphil:ドラゴンボールの場合、言語を作るといってもあくまで目的はストーリーに落とし込むことなので、言語体系を「どこまで作り込むか」難しいと思うんです。文法まできっちり作り込むとストーリーを考える時間がなくなってしまいますし、極端な話、文字っぽいものをササっと描くだけでも成り立つわけじゃないですか。
でも、ナメック語に関しては「ピッコロ」を4文字の単語で表すなど、おそらく日本語に対応させている。そうやって読者に「これはデタラメに作られた言語ではないぞ」と思わせるだけの説得力と、「考察したい」と思わせるだけの奥深さ、そして週刊連載に盛り込めるレベルの簡潔さ、というバランス感覚が素晴らしいですよね。
『DRAGON BALL大全集7:鳥山明ワールド』(集英社、1996年)より引用
――Ziphilさんもシャレイア語を作る際に「どこまで作り込むか」を悩みましたか?
Ziphil:そうですね。例えば、文字の形は丸と直線を組み合わせた複雑になりすぎない形にしよう、と考えたり。
誕生まもない頃のシャレイア文字の形。Ziphilさんいわく「いろいろな組み合わせを100個くらい書いてそこから文字っぽいものを選んで作った」そう(Ziphilさんの公式サイトより引用)
ちなみにシャレイア文字はマイナーチェンジを繰り返していて、最新のバージョンでがらりと変わりました。かなり丸の形が増えて、ミャンマーで使われているビルマ文字を思わせる形になっています。
「新シャレイア文字」と呼ばれる現在の形(Ziphilさんの公式サイトより引用)
そもそも、皆さんが想像するほど複雑な要素がなくても、言語は成立します。例えばトキポナという人工言語は120個くらいしかない単語で成り立っています。本質的な概念が120個あれば、あとはその組み合わせで伝えたいことを表現できるというわけですね。
――なるほど。自由度が高いからこそ悩む部分も多いとも言えそうですね。ナメック語とシャレイア語との共通点などはあるのでしょうか?
Ziphil:文字体系の複雑度は似ていそう、と思いましたが、文法については真逆かもしれない。ナメック語はおそらく日本語と対応していますよね。つまり、動詞が最後にくる。逆にシャレイア語は動詞が最初に来るので、きっとナメック星人も、シャレイア語を学ぶのには苦労すると思いますね(笑)。でも、異星人に分かる言葉が喋れるバイリンガルのナメック星人なら、楽々学べてしまうかも……?
取材・文:山田井ユウキ
写真:関口佳代
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