2024.12.27
世界中から武術の達人が集まり、最も強い者を決める「天下一武道会」。『ドラゴンボール』における序盤の山場であり、以降も複数回の大会のなかで数々の名勝負が生まれました。そんな天下一武道会の“興行”としての価値や可能性を、格闘技イベントのプロデューサーはどう見るのでしょうか?
今回お話を伺ったのは、 「RIZIN」「PRIDE」など、名だたる格闘技イベントをプロデュースしてきた榊原信行さん(「榊」<さかき>の字は正しくは木へんに神)。原作に描かれている集客量や開催場所、大会のレギュレーションなど、さまざまなトピックから、「天下一武道会が興行として成り立っているのかどうか」を分析してもらいました。
また、もし榊原さんが天下一武道会をプロデュースするとしたらどんな要素を追加するのかなど、トッププロモーターの目線でもアレコレ語っていただきます。
榊原信行さん:愛知県生まれ。株式会社ドリームファクトリーワールドワイド代表取締役社長。大学卒業後、東海テレビ事業株式会社に入社し、さまざまなイベントをプロデュース。1997年に「PRIDE.1」を開催し、2007年の売却まで唯一無二の地位を築く。2015年に「RIZIN FIGHTING FEDERATION」を始動。2022年開催の「THE MATCH 2022」では、那須川天心×武尊戦を実現させた。
――榊原さんは1997年からスタートした「PRIDE」に当初から関わり、2015年には「RIZIN」を立ち上げるなど、20年以上にわたって日本の格闘技シーンを牽引し続けてきました。そんな榊原さんに今日は、格闘技プロデューサーの視点で天下一武道会を分析いただきたいと思います。ちなみに、榊原さんはドラゴンボールのことをどれくらいご存知でしょうか?
榊原信行さん(以下、榊原):漫画を熟読したことはないのですが、もちろん天下一武道会は知っていますし、これまで手がけてきた格闘技イベントで参照した部分も多々あります。何より、鳥山明先生は私の地元でもある愛知県の偉人として大いにリスペクトしていますよ。
――では、改めて天下一武道会の大会概要を説明しますと、会場は南国「パパイヤ島」の武道寺。100年以上も続く「世界一の武術の達人」を決める大会で、悟空たちが初めて参加した第21回大会までは5年に1度の開催でした。その時の出場選手数は137人。観客は全て立ち見で、多く見積もって数百人程度と思われます。まず、この情報を聞いて、格闘技イベントとしての天下一武道会に抱いた率直な感想をお聞かせください。
榊原:どんなイベントであれ、重要なのはプロモーター(興行主)が何を目的に開催しているのかということ。天下一武道会の場合、会場にもなっている「武道寺」が主催していたとしたら、目的は寺院のプロモーションだったり、布教活動の一環なのかもしれない。格闘技のルーツは祭祀ですからね。それが100年以上続いているなら、興行としては赤字であったとしても十分に成立していると言えます。
アジアの寺院を彷彿とさせる外観が特徴的な競武館。ここで天下一武道会の予選が行われた
あるいは、パパイヤ島の観光プロモーションという目的があって、国の公金が入っているのかもしれません。現に、中東のドバイやリヤドなどでは、石油ビジネスの次の一手として観光産業やエンターテイメント産業、スポーツコンテンツに力を入れていて、総合格闘技も国を挙げて支援しています。
そもそも、僕が何よりすごいなと思うのは 「天下一武道会」というネーミングです。
――世界一強い者を決める大会だと言うことが、一言で伝わります。
榊原:結局のところ、今も昔もそれが格闘技の命題なんです。古代ローマの時代から、多くの人は「今、誰が一番強いのか?」を知りたい。格闘技にはボクシング、キックボクシング、レスリング、柔道、柔術、相撲などさまざまなジャンルがありますが、それぞれのチャンピオン同士が戦ったら誰が勝つのかっていう。僕らが25年前にPRIDEを始めたのもそんな動機からでしたし、アントニオ猪木さんが異種格闘技路線に傾倒していったのも、同じ理由ではないかと思います。
ただ、残念ながら現実世界では、「“誰もが認める一番強いやつ”を決める戦い」と言える天下一武道会のように、絶対的な地位を手に入れた格闘技イベントや団体は、今のところ存在しないと思います。
――異種格闘技戦といえば、天下一武道会の予選会場には相撲やボクシング、空手、拳法、プロレスなどさまざまなジャンルの選手たちが集まっています。
榊原:異種どころか、明らかにゴリラと思われるやつ、怪獣みたいなキャラクターまで参加していますからね。さらに突き抜けている。
「明らかにゴリラと思われるやつ」も後ろに見える
もしかしたら現実の世界でも近い将来、「朝倉未来 VS 怪獣」が実現して、鳥山先生に追いつく時代が来るかもしれませんが(笑)。
ちなみに、鳥山先生が初めて天下一武道会を描いたのはいつ頃なんですか?
――原作では1985年です。
榊原:それはすごい。というのも、その頃は当然RIZINもなければ、PRIDEもUFC(アメリカ合衆国を拠点とする総合格闘技団体)もなく、そもそもMMA(総合格闘技)という言葉すら誕生していませんからね。つまり、鳥山先生は原型になるものが何もないところから、オールジャンルの武術大会を構想し、漫画に落とし込んでいる。
ルールも秀逸で、例えば予選の試合時間が1分(第21回大会)というのも、まさに今話題の「BreakingDown」じゃないですか。改めて、40年近く前に鳥山先生が「1分間の試合」を描いていたことに驚かされます。
――次に、天下一武道会の格闘技大会としてのレギュレーションに注目したいと思います。特に過酷だったのが、最終的に天津飯が優勝した第22回大会です。予選の時間制限がなくなり、決勝も時間無制限の一本勝負が7試合。優勝者は予選も含めると、1日5試合以上は戦わなければならない計算で、現実の格闘技イベントではあり得ない、凄まじくシビアなトーナメントですよね。
第22回大会の対戦表
榊原:プロデューサーとしてはそれくらいのことをやってみたい気持ちもありますが(笑)、アスレチックコミッションが管轄するアメリカでは、アスリートの健康を守るために1日あたりの最大は1ラウンド5分×5ラウンドまでと決められています。日本ではそういったコミッションがないので、主催者の判断で決めることができますが、それでも近年の傾向としては1日2試合でも「選手の負担が大きい」という意見が大きいくらいですから。
ただ、PRIDEの時代は、今より緩やかだったので桜庭和志とホイス・グレイシーが1ラウンド15分を6ラウンド、合計90分も戦っています。個人的にはこんな戦いをまた見たい。体重も無差別、時間も無制限にして 「競技会」の枠を超えたい。全てをアメリカに合わせるのではなく、日本らしい総合格闘技のあり方があってもいいのではないかと思います。
――それこそ2000年代はPRIDEやK-1も、日本の格闘技イベントはよく1DAYトーナメントをやっていた記憶があります。
榊原:当時の「PRIDEグランプリ」と「K-1グランプリ」が、決勝まで勝ち上がると1日3試合。やれたとしても、それが限界でしょうね。
――それ以上となると、選手への負担が大き過ぎると。
榊原:トーナメントやグランプリの面白さは、「番狂わせ」が起こりやすいことですよね。フレッシュな状態で戦ったら10回やって10回負ける相手でも、組み合わせの妙や前の試合でのダメージの蓄積具合によって、勝てるチャンスが生まれる。さらに時間無制限ともなれば、前の試合で1時間の死闘を演じた選手と、5分で決着がついた選手だと、圧倒的に後者にアドバンテージがあります。一日複数試合を行うグランプリは、こうした不条理が入り込む余地があるので、そこにはお互いにフレッシュな状態で戦うタイトルマッチとはまた違った魅力があるのではと思います。
――前の試合の影響かどうかは分かりませんが、天下一武道会の第22回大会でも、悟空が最終的に敗北するという意外な展開がありました。
勝利目前だった悟空だが、自動車に衝突して天津飯より先に地上へ落下し敗北
榊原:そう、だから現実の世界でも、ぜひ天下一武道会をやりたいですよね(笑)。もちろん、そこまで選手たちにリスクを負ってもらうからには相応のファイトマネーが必要ですが、実現したらめちゃくちゃ人気が出そうだし、PPV(ペイ・パー・ビュー、有料コンテンツを課金して視聴する仕組み)も売れそうです。
――それは絶対に盛り上がりますね。
榊原:一方で、興行・ビジネスの視点で言うと、これだけのイベントを1日で完結させてしまうのは惜しい気もします。例えば、予選は地域ごとに実施し、そこで勝ち抜いた者だけがパパイヤ島で決勝トーナメントを行うとかね。
――そうなるとパパイヤ島に行くこと自体の価値も高まりそうです。
榊原:そう、全ての格闘家にとってパパイヤ島や武道寺が聖地のような位置付けになりますよね。サッカーのワールドカップだって、4年に一度の本大会を目指して、激しい地域予選が各地で行われるじゃないですか。その勝ち上がりのドラマがあるからこそ、本大会への注目度がグッと高まる。
格闘技の世界もそうですが、 全ての興行には「ピーク」が必要です。RIZINでいえば、ピークは大晦日。それまでの1年間の戦いを含めたドラマが、この日に完結するように位置付けています。そして、この日からまた新しいドラマが生まれる。そうした、「句読点」になるような試合を大晦日に持ってくるようにしているんです。もし私が天下一武道会をプロデュースするなら、地域予選と本大会という立て付けにして、本大会にピークを持っていくようにするでしょうね。
――会場のキャパシティという点ではいかがでしょうか? 作品序盤の会場は、世界一の武術家を決める大会にしては客席のスペースが小さく、収益の観点で少しもったいない気もします。
左:第21回大会の会場の様子、右:第25回大会の会場の様子。武舞台や客席が大幅に広くなっている
榊原:ただ、あえてクローズドな空間で開催することで、逆に多くの人に関心を抱かせるという戦略もあると思います。例えば、本来東京ドームや国立競技場という数万人規模の会場が埋まるような興行を、あえて1000人しか入れないような場所でやるとしますよね。すると、「どうしても見たい!」と思う人が増えて、テレビの視聴率が上がったり、PPVが爆発的に売れたりするかもしれません。
――たしかに、仮に天下一武道会のPPVがあったら、パパイヤ島に足を運べない人でもリアルタイムで観戦できますよね。
榊原:RIZINでも実際、コロナ禍に超クローズドな大会をやっているんです。開催場所は「都内某所」。200人くらいしかお客さんが入れない空間で朝倉未来と萩原京平に戦ってもらいました。コロナ禍で大規模なイベントの開催が難しいがゆえの苦肉の策でしたが、結果的にものすごくPPVが売れたんですよ。クローズドにしたことで、「そこで何が起こるのか?」というワクワク感が増したのだと思います。収益を最大化するために、試合をどうラッピングするのか。それも、プロデューサーの腕の見せ所ではないかと。
――ちなみに、榊原さんなら天下一武道会のチケットの値段をいくらに設定しますか?
榊原:会場の最前列は100万円、いや100万ゼニーくらいにしてもいいんじゃないですかね。
観客たちも前列が「いい場所」だという認識は持っている
それでも安いかもしれません。なんといっても、世界のベスト8の戦いを間近で、最後まで見られるわけですから。とてつもない価値があると思いますよ。
――RIZINは2025年で10周年を迎えます。それこそ100年以上の歴史を持つ天下一武道会のような息の長いイベントにしていくために、どんなことが必要でしょうか?
榊原:選手のモチベーションとファンの熱狂を生み出し続けることです。前者は「この試合に人生をかけてもいい」と思えるくらい、ある種の「洗脳」をかけてあげること。結局、僕らがプロデュースできるのはゴングが鳴る瞬間までで、試合の中身自体はつくれません。だからこそ、リングに上がる選手たちが最高の状態で試合に臨めるよう、その気にさせてあげる必要があります。
そのためにはマッチメイクだったり、カッコいい演出を含めた雰囲気づくりだったり、もちろん高額なファイトマネーだったり、いろいろな要素がありますが、最も大きな力になるのはやはりファンの皆さんの声援でしょう。4万人規模の会場に3000人しか入らず、声援も飛ばないような環境では、どんなに良い選手をそろえても最高の戦いは生まれないでしょう。
観客がパンパンに詰まった会場に立ち、数万人の声援を受けることではじめて選手は最高のモチベーションで試合に臨み、時には想像を絶する結末を迎える。そうしたドラマチックな刺激を求めて、またファンが会場に足を運んでくれる。双方のエネルギーを交換し合うような良い循環がつくれたら、長く続くものになるのではないかと思います。
――そんな熱狂を生み出し続けていくために、天下一武道会の要素をRIZINに取り入れることも考えられますか?
榊原:新しく何かを取り入れるまでもなく、すでに僕ら格闘技に携わる者は多かれ少なかれ、ドラゴンボールや天下一武道会の影響を受けていると思っているんです。だって、RIZINのリングでも那須川天心や扇久保博正をはじめ、昔も今も世界中の格闘家が「かめはめ波」のポーズをやるじゃないですか。それに、今日話したように、運営視点で「ここ天下一武道会っぽいな」と思う部分もたくさんあるんですよ。そういう意味で、MMAのルーツは天下一武道会にあるといっても過言ではないかもしれません。
だからこそRIZINも、世界中の格闘家、ファンに注目されて「リアル天下一武道会だよね」と言ってもらえるような存在になることが目標です。小さくまとまらず、人々の熱狂を生み出し続けていきたいですね。そして、最終的には怪獣を出場させます(笑)。
取材・文:榎並紀行(やじろべえ)
写真:関口佳代
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