2024.11.08
魔導師バビディによって、復活を遂げた魔人ブウ。あらゆるものを体に吸収するだけでなく、相手の得意技を瞬時にまねしたり、さまざまな形態に変化したりする悟空たちの強敵です。
人智を超えた生命体である魔人ブウは、専門家にとってどう映るのでしょうか? これまであまり科学的に語られてこなかった魔人ブウの生態を、北海道大学教授で細胞生物学者の芳賀先生に分析してもらいました。
語り手:芳賀 永先生
北海道大学 大学院先端生命科学研究院 教授
細胞生物学、腫瘍生物学、生物物理学、再生医学が専門領域。研究領域は上皮細胞集団の運動、がん細胞の集団浸潤運動、基質の硬さに誘引されるがん細胞の悪性化、ES細胞の神経分化などを含む幅広いテーマに及ぶ。
聞き手:まいしろ
エンタメ分析家。データ分析やインタビューを通して、なんでもないことを真剣に調べてみた記事をたくさん書いてます。よく書いているのはYahoo個人、デイリーポータルZなど。音楽・映画・漫画が特に好き! @_maishilo_
──ブウは再生や分裂といった、人間では考えられない能力を持っています。ブウを実在の生き物にたとえると、一体何になるのでしょうか?
芳賀先生(以下、芳賀):いろいろな説が考えられますが、僕は粘菌(※1)の仲間だったらおもしろいなと思っています。
※1 粘菌は「変形菌」とも呼ばれる単細胞生物で、朽木や土の中に住んでいる
──ブウが粘菌の仲間?!
芳賀:ブウは細かく分裂したり、集まって大きなブウになったりしますよね。これはまさに細胞性粘菌にそっくりなんです。細胞性粘菌とは、髪の毛の10分の1ほどしかない小さな生きものです。ふだんは一つひとつの細胞がバラバラに動いて、エサを捕まえます。
バクテリアの捕食と分裂
バクテリアの捕食と分裂:井上敬博士作成、出典:日本細胞性粘菌学会YouTube公式チャンネル(dicty.jp細胞性粘菌学会 - YouTube)
細胞性粘菌 Polysphondylium filamentosumの飢餓集合
細胞性粘菌Polysphondylium filamentosumの飢餓集合:橋村秀典博士作成、出典:日本細胞性粘菌学会YouTube公式チャンネル(dicty.jp細胞性粘菌学会 - YouTube)
でも、細胞性粘菌は食べものがなくなると、数万から十万個ぐらいで集まって、ナメクジのような大きな生きものに変わるんです。
そして、そのまま大移動して、エサを求めて胞子を作り新天地へ飛び散ります。1つの細胞が複数集まって大きな集合体になるという意味では、「細胞性粘菌とブウは似ている」と言えるかもしれません。
──地球上にブウのような生きものがいるんですね!
芳賀:そうなんですよ。それに、 粘菌は知性があるんです。真正粘菌という別の粘菌がいるんですが、これはどうも知性がありそうだと言われています。
左:真正粘菌が迷路全体に広がっている
中:迷路の入口と出口にエサを置くと、エサを結ぶ経路ができる
右:最終的に入口と出口の最短経路が残る
北海道大学電子科学研究所 中垣俊之教授 提供
北海道大学で同僚の中垣俊之先生が、真正粘菌に迷路を解かせたんですよ。そうしたら、粘菌はエサを求めて迷路の最短経路に集まったんです。こういう粘菌のような生きものは、知性がないと思われがちです。でも、人間にわからないだけで実はいろいろなことを考えているかもしれないんです。
それを踏まえると 、魔人ブウは知性を著しく発達させた粘菌の仲間かもしれません。
──ドラゴンボールの感想として、生まれて初めて聞く話でとてもおもしろいです! ブウは作中でも屈指の強敵ですが、粘菌の戦闘力は高いのでしょうか?
芳賀:地球の粘菌は人間もサイヤ人も襲わないので、比べにくいですが......もしも粘菌が攻撃性を得たら厄介ですね。いたるところにいるし、なかなかいなくならないし、絶滅させようと思ったら本当にサイヤ人にしか無理だと思います。
ただ、地球の粘菌には決定的な弱点があって、止まっているようにしか見えないぐらい動きが遅いんですよ。
──弱点が致命的すぎる......!
芳賀:なので、あんまり心配しなくても大丈夫です。もし攻撃してくる粘菌に出会っても、洗い流して逃げてください。
──人間でも闘えそうでよかったです。
──魔人ブウには、別の生きものを取り込んで変身する能力もあります。地球上にこれに近い能力を持った生きものはいるのでしょうか?
芳賀:マクロファージや好中球ですね。
──それって何でしょうか?
芳賀:私たちの体の中にいる白血球のひとつです。体の中をパトロールしていて、一度でも敵を見つけると執拗に追いかけ回します。
──おお、そんなに追いかけてくるんですね!
芳賀:マクロファージは敵を追い詰めると、自分の中に取り込むんです。で、その取り込んだものを体の外に分泌するので、見た目が変わるんですよ。そして、他の場所で待機しているもっと強い免疫細胞(※2)のところに行って、「こんな敵を見つけました」と報告します。報告を受けた細胞は、それをもとに出動するんですね。
ブウに話を戻すと、ブウは敵を取り込むと外見や服にもそれが出ますよね。僕はあれを見て「マクロファージのようだな」と思ったんです。
※2 体の中で病原菌やウイルスから体を守る細胞
──ブウは敵を取り込むとパワーアップできますが、マクロファージはどうなのでしょうか?
芳賀:マクロファージの場合は、命が尽きてしまいます。
──切ないですね……。
芳賀:少々の敵ならもとに戻れますが、強い敵の場合は飲み込んだ瞬間に力尽きてしまいます。周りに迷惑をかけないよう破裂し、他のマクロファージに食べてもらいやすいサイズになります。
──パワーアップするブウとは真逆の展開……!
芳賀:そうですね。他のものを取り込んでパワーアップするという点では、ブウはマクロファージよりミトコンドリアかもしれませんね。
──ミトコンドリアとは何ですか?
芳賀:ミトコンドリアは、私たちの細胞の中にいる生命体です。私たちも生きものですが、さらにその中に細胞があり、そこにも生きものがいるんですね。ミトコンドリアは、単体では生きられません。だから、大昔に私たちの細胞とフュージョン(融合)したんですよ。それにより、ミトコンドリアは生きられるようになり、細胞側は大きなエネルギーを手に入れられるようになりました。
「敵を取り込みパワーアップする」という点だと、 ミトコンドリアと細胞の関係が一番似ているのかもしれませんね。
──そんな生きものが私たちの体の中にいるんですね! 自分の体の中で、ブウと悟空たちのような闘いが起きているかと思うとおもしろいですね。
──ここまでブウの生態について聞いてきましたが、逆になぜ私たちはブウのように変身したり分裂したりできないのでしょうか?
芳賀:細胞が分化(ぶんか)しているからです。人間には、だいたい200種類の細胞があります。最初はすべて同じ細胞ですが、成長の過程で種類が分かれていきます。これを「分化」といって、一度分化した細胞は他の細胞にはなれません。
ブウのようになるには、分化した細胞をいろいろな種類に変えないといけないので、人間には難しいんですね。
──将来科学が進化した場合、私たちがブウのようになれる可能性はありますか?
芳賀:不可能ではないと思います。山中伸弥教授(京都大学)が発見したiPS細胞はまさにこれについての研究で、細胞を分化前まで巻き戻せるかもしれないという発見なんです。
ブウのような早さで変身するのは難しいかもしれませんが、ものすごく変身が遅い魔人ブウなら人間でもなることができるかもしれません。
──あらためて科学のすごさがわかりました! 最後に、ブウについて先生なりの見解があれば教えてください。
芳賀:ブウには分裂や再生、変身など、いろいろな能力がありますが、「とにかく破壊したがる」という特徴もありますよね。僕は、ブウは宇宙にとっての破骨(はこつ)細胞だからではないかと思いました。
──破骨細胞……?!
芳賀:破骨細胞というのは、体の中でひたすら骨を壊し続けている細胞です。壊すことにしか興味がなくて、手当たり次第に骨を掘っているんです。でも、それは体にとって必要なことなんですよ。破骨細胞が古くなった骨を壊すおかげで、別の細胞が新しい骨を作ることができるんです。このサイクルが回ることで、僕たちの骨はボロボロにならずにすむんです。
地球を壊しに来たブウは、地球人にとっては敵でした。でも、もしかしたら広い宇宙の中では、地球の破壊が必要なことだったのかもしれません。
僕たちには都合が悪かったけど、魔人ブウなりに宇宙の進化の使命があったのかもしれない。久しぶりにドラゴンボールを読むと、子どものときにはわからなかった視点が持てて、興味深かったです。
──先生のお話には、自分で読んでいるだけでは気付けない発見がたくさんあって、とてもおもしろかったです。本日はありがとうございました!
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