2024.02.08
ドラゴンボールの世界には、さまざまな「チーム」が登場します。
代表格と言えるのがフリーザ軍の特殊部隊として登場したギニュー特戦隊。高い戦闘力を買われ全宇宙から集まった個性派メンバーが、ギニュー隊長を中心に一枚岩となってまとまりました。ギニュー特戦隊の結束を示す「あのポーズ」を、子ども時代に真似て遊んだ人も多いのではないでしょうか。
また人造人間17号と18号、そして16号によるチームも印象的でした。いずれもドクター・ゲロの手によって生み出された人造人間でありながら、行動特性や価値観はさまざま。それでも「孫悟空をたおす」という共通目的がブレることはなかったのです。
ギニュー特戦隊や人造人間チームの結束力の背景には何があったのでしょうか。組織心理学を専門とし、チームワークの研究を続ける三沢良先生(岡山大学 学術研究院教育学域 准教授)に考察していただきました。彼らのチームワークの秘訣を知れば、現代の理想のチーム像が見えてくるかも……?
語り手:三沢良さん
岡山大学 学術研究院教育学域 准教授
2009年、九州大学大学院人間環境学府単位取得後退学。博士(心理学)。奈良大学社会学部専任講師などを経て2021年より現職。専門は社会心理学、産業・組織心理学。著書に『組織行動の心理学』(分担執筆、北大路書房)など。
聞き手:多田慎介
1983年生まれのフリーライター。四人きょうだいの末っ子。兄たちの影響で、物心ついたころにはアニメ『ドラゴンボール』を毎週欠かさず見るようになっていた。好きな敵キャラクターは栽培マン。
——この取材ではチームワークの専門家として、ドラゴンボール世界におけるチーム力を一緒に考えていただきます。
三沢先生(以下、三沢):思いも寄らないテーマだったので驚きました。実は私は、週刊少年ジャンプでの連載開始当初から夢中になって読んでいた「ドラゴンボールのガチ世代」なんです。今回は楽しみながら真剣に考察できればと思います。
——ありがとうございます。まずは三沢さんの専門分野を改めてお聞かせください。
三沢:私の専門は組織心理学や社会心理学と呼ばれる分野です。組織・社会における人間の意識や行動を研究し、その法則性を明らかにすることを目的としています。具体的なテーマとしては対人関係の問題や集団におけるリーダーシップ、チームワークなどを扱っています。
——私たちも日常的によく「チームワーク」という言葉を使いますが、そもそもチームワークとは、どのように定義されているのでしょうか。
三沢:「チームワーク」は複数の人たちで協力し、コミュニケーションなどのやり取りを通じて行う仕事だと定義できます。これと対になる言葉が「タスクワーク」、つまり個人が単独でタスクを遂行する仕事です。
陸上競技の400メートルリレー走をイメージすると分かりやすいかもしれません。400メートルリレーでは4人のランナーがチームを組んで走ります。それぞれが100メートルずつ分担して走るのが個人のタスクワークですね。そしてランナー同士でバトンを渡す作業がチームワーク。両方が成り立って400メートルのゴールを達成できるわけです。
私たちの日常も同様で、チームとしての仕事には必ずタスクワークとチームワークが存在し、両方を成立させなければチームの目的を達成することができません。
——チームワークを良くするためには何が必要なのでしょうか。
三沢:学術的には「ABCの要素」が必要だと考えられています。
AはAttitude(アティチュード)で「態度」を意味します。メンバーが互いに信頼し合える態度で接することはチームづくりの基本ですね。
BはBehavior(ビヘイビア)で「行動」です。考えを伝えるためのコミュニケーションをしたり、チームの状態を把握するためにモニタリングしたりといった行動がチームワーク向上には欠かせません。
そしてCはCognition(コグニション)で「認知」。メンバー同士の状況が見えているか、基本的な手順や見通しなどが共有できているか。こうした認知の統一もチームワークを左右するのです。
チームワークの優劣を評価する際には、ABCの視点でどこが優れているか、あるいはどこに問題があるのかから見ることができます。例えば互いへの信頼や団結といった態度だけがどんなに優れていても、行動や認知がともなわなければチームはなかなか成果を上げられません。逆に行動や認知が的確でも、不信感や険悪な雰囲気など態度に問題があれば、メンバーはどんどん疲弊してしまうでしょう。
——ここからはドラゴンボール世界のチームについて伺います。フリーザ軍の特殊部隊であるギニュー特戦隊は、「ドラゴンボールを7つそろえて不老不死を達成する」というフリーザの願いをかなえるために高い結束力を見せました。彼らはどのようにして絆を深めていったと考えられますか?
右上から時計回りにバータ、ジース、ギニュー、グルド、リクーム
三沢:ギニュー特戦隊と言えば、5人そろって完成するあのファイティングポーズが印象的ですよね。このポーズに表れているように、4人はギニュー隊長を中心として、一体感を持つための仕組みやルールを大切にするチームなのだと思います。
現実の世界でも、スポーツにおけるユニフォームや、学生サークルが作るオリジナルTシャツなどは、チームが一体感を持って絆を深めるための仕組みだと言えるでしょう。
——ギニュー特戦隊は全宇宙から集まっているだけあって、多様性あふれるメンバー構成となっています。
三沢:そうですね。サブリーダー的な立場で隊長を支えるジース、力自慢でありムードメーカーでもあるリクーム、それと対になる形で宇宙一のスピードを誇るバータ、超能力を自在に操るグルド……。
このグルドはギニュー特戦隊においては異色です。戦闘力は低いものの、その特殊な力が認められてメンバーとなっています。その意味では、5人の中に戦闘力による単純な上下関係は存在しないのかもしれません。我先に功を打ち立てようとするライバル関係がありつつも、それぞれの強みや専門性を生かし合おうとしていますよね。
そして隊長のギニュー。印象に残っているのは、自分がおいしいところを持っていこうとして「ズルイ」と言われ、すぐに考え直して部下の意思を尊重したシーンです。こうして部下のモチベーションを高めながら、一方では明確にフリーザの命令に従うことをチームに浸透させている。フリーザ軍を支える理想的な中間管理職だと言えるかもしれません。
——しかし、グルド、リクーム、バータは悟空とベジータによって次々と倒されてしまい、ギニュー特戦隊は壊滅状態になってしまいます。このチームの落とし穴はどこにあったのでしょうか。
三沢:惜しむらくは、最初の段階でギニュー隊長に判断ミスがあったと思われるところです。ギニューは当初、自身がドラゴンボールの運搬を担い、部下には戦う相手の決め方を指示して迅速に動くようにしました。
しかしチームとして最善を尽くすのであれば、部下を個々に戦わせるのではなく、みんなで一斉に戦ったほうがよかったはず。個を立てようとするあまり、部下に任せて失敗してしまったと言えます。また、この危機的な状況をフリーザに共有せず、自身とジースのみで何とか対応しようとしたことも裏目に出ました。
前述したチームワークのABCに照らせば、「態度」は100点満点だったかもしれませんが、「行動」「認知」の面で足りない部分があったのではないでしょうか。
ギニュー特戦隊にとって、孫悟空たちとの戦いはこれまでに出会ったことのない未知の状況だったのでしょう。チームワークを発揮しようと思えばできたはずなのに、変化に対応することができないままチームが瓦解してしまった。もしかするとギニューたちは、過去の成功体験に縛られすぎていたのかもしれませんね。
——続いては、人造人間16号、17号、18号が見せたチームワークについて考察していただきたいです。彼らは「孫悟空をたおす」という共通目的を持っていました。
三沢:人造人間の3人については、そもそもチームと呼ぶことが適切なのだろうか、という迷いもあります。たしかに目的は強烈に共有されていましたが、「われわれは人造人間チームである」といった意識は彼らからは感じられませんし、戦闘においても直接的に連携したわけではありません。
しかし、作中には興味深い描写も多数登場します。例えば17号は「孫悟空をたおすこと=ゲーム」として捉え、ゲームであるからには途中でさまざまな困難があったほうがより楽しめると考えて、あえて悟空の家がある場所(東の439地区)までクルマで移動しようと提案しました。
———17号は目標達成までの過程にもこだわっていたわけですね。こうした考え方は、16号や18号にどのような影響を与えたのでしょうか。
三沢:「こいつはただのゲームなんだ」「ムダが楽しいんじゃないか」と発言する17号からは、仲間に指示するのではなく、ゆるやかな共感を得ようとする意図が感じられます。
同時に17号には、単に我を通そうとするだけではなく、16号と18号のそれぞれの主義・主張を尊重しようとする姿勢も見られるんですよね。個人のこだわりには干渉しようとせず、それでも楽しみながら物事を進めようとする姿勢に、16号と18号も惹かれるものがあったのではないでしょうか。
16号については自然や動物を愛する側面が描かれています。そのスタンスに影響されたのか、作中の時系列における17号と18号は動物や人間にいたずらに危害を加えることはありませんでした。その後16号は「おまえたちはいいやつだ」「楽しかった…」と2人に告げています。
——互いの価値観を邪魔しないからこそ、3人はチームでいられたのですね。
三沢:そう思います。かつ、人造人間たちはフラットなつながりの中で行動していました。これは現実世界の私たちに重要な示唆を与えています。
なぜなら、現在は多くの組織において個人の価値観を尊重し、それに寄り添うスタイルのリーダーシップが求められているからです。軍隊的なピラミッド構造のチームでは、多様化する個人の価値観を生かしきることができません。大きな目的を共有し、それぞれが成果を発揮するために横並びでともに歩んでいくチームのあり方を、人造人間たちは見せてくれたのではないでしょうか。
——三沢さんが考える理想のチーム像とは、どのようなものですか?
三沢:私は、一人ひとりのメンバーが「水を得た魚」になれるチームがいいですね。個人のポテンシャルが遺憾なく発揮され、結果的に集団としても強くなっていける。そんなチームが理想的だと考えています。
ただし、個人が能力を発揮するだけではチーム力の強化にはつながりません。大切なのは対話と連携を通じて「チームワークのABC」を実践すること。
ドラゴンボール世界におけるギニュー特戦隊のように、現実世界の私たちも大きな変化の中を生き、未知の脅威と向き合っていかなければなりません。変化への適応力を高めるためにも、異なる強みを持つ個人が対話し、連携していくことが欠かせないんです。
——ギニュー特戦隊も人造人間たちも、明確に目的を共有しているという点で強いチームだったと思います。一方、現実世界のチームや組織では、目的が不明瞭になったり共有できなくなったりすることも少なくありません。そんな状態のチームは、どんなアクションを起こすべきでしょうか。
三沢:互いに抱えている問題意識を共有することが大切だと思います。何を問題として捉えるかは、個人の見え方や考え方によって変わってくるもの。自分には思いも寄らない問題意識を他のメンバーは持っているはずです。
愚痴や文句が先に立ってしまってもいいので、まずはそうした問題意識について、率直に話し合ってみてはいかがでしょうか。それぞれが抱える問題意識を知ることは、背景にある本質へ迫ることにもつながります。その本質の中にこそ、チームとして共有すべき目的があるのかもしれません。
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