2023.09.28
ドラゴンボールの原作では、月が2回破壊されます。一度目は天下一武道会中、亀仙人が孫悟空の大猿化を解除するため、夕月をかめはめ波で破壊しました。二度目は孫悟飯が大猿化した際に、ピッコロが月を吹っ飛ばして悟飯の暴走を止めています。
月がない間もドラゴンボールの登場人物たちは大きな影響なく生活していますが、現実で月がなくなった場合、どんな影響があるのでしょうか?
それから、さらに気になることが。ベジータは孫悟空との闘いの中で、自身を大猿化させるため自ら月を作り出します。現実の技術でも、人工的に月を作ることは可能なのでしょうか? また、大猿化に必要な「ブルーツ波」って一体……?
疑問を持ち始めるとキリがない! というわけで、今回は大阪大学大学院教授の寺田健太郎先生にお話を伺いました。
語り手:寺田 健太郎先生
大阪大学大学院教授。大阪大学理学研究科物理学専攻で学位取得後、広島大学に助手として着任。准教授、教授を経て2012年より現職。専門分野は宇宙地球科学、同位体惑星科学。宇宙の研究を志したきっかけは「高校生のとき、宇宙の法則に感動したこと」。
聞き手:ヒガキ ユウカ
編集者、ライター。物心ついた頃から生粋の文系で、苦手科目は理科。大人になってから漫画などのエンタメを通して、理科の面白さに気付きつつある。
――早速お聞きしたいのですが、そもそも月って一体何なのでしょうか?
寺田先生(以下、寺田):そうですね。まず、教科書的には月は一つしかありません。
――教科書的には、というと?
寺田:僕ら宇宙地球科学の分野では、惑星の周りを回っている物体を衛星と呼びます。月は地球の衛星です。この定義に該当する衛星は、太陽系の中だけでも現時点で300個ぐらいあります。
――300個も! 私たちが普段「月」と呼ぶ星の他にも、たくさんの月があるんですね。
寺田:時々ふらっと地球の近くにやってきて、またどこかに飛んでいってしまう小さな岩のようなものも地球の衛星といえるので、「月の一種」と言えるかもしれませんね。大きさが2~3mぐらいのサイズのものもあるので、こういう月も含めてしまうと、「月を壊すことはそれほど大それたことではない」ということになります。
※以降、一般的な月のみカギカッコ付きの「月」、宇宙地球科学で定義され複数該当する月をカギカッコなしで表記します。
――そ、そうなんですね……。私たちが普段見上げている「月」を壊すとしたらいかがでしょうか?
寺田:「月」を壊すことは非常に難しいと思います。「小惑星を壊そう」という研究があるんですが、そちらを参考に説明しますね。
昔、地球に小惑星が飛んできたことで、恐竜は絶滅したとされています。この現象は1億年に1回程度起こると計算されており、最後に起きてから6600万年ほど経っていることを考えると、確率的にはそろそろ次の衝突が起きてもおかしくありません。
そうなったら困るので、もし小惑星が飛んできたときになんとか壊せないか、という研究が行われています。でも、これがなかなか難しい。シミュレーション上で壊してみると、2〜 3日でほぼ元のサイズに戻ってしまうという結果が出ているんです。
――なぜ元に戻ってしまうのでしょうか?
寺田:万有引力によって、物は集まろうとします。破壊してバラバラにしても、残ったかけら同士が集まってしまうんですね。元のサイズより多少は小さくなるかもしれませんが、木っ端みじんにしてそのまま、というのは非常に難しいと思います。
もし跡形もなくしようとしたら、バラバラにした上で、かなりの勢いでかけらを散らさないといけません。 亀仙人やピッコロは相当特殊な攻撃をしたか、ものすごいエネルギーの攻撃をしたんじゃないでしょうか。
――それだけ2人は規格外のことをしていたんですね……。そもそも、月はどんな物質でできているんでしょうか?
寺田:月も小惑星も、基本的には石でできています。ですから月を壊すのは、巨大な石の塊を壊すイメージが近いです。月についての基本情報をまとめました。
寺田:そして、月の石は地球の石によく似ています。また月は少しずつ地球から遠ざかっているのですが、裏を返せば、もともとは地球のすぐそばにあった。これらをヒントに生まれたのが、ジャイアント・インパクト仮説です。
ジャイアント・インパクト仮説は「できたばかりの地球に、地球の半分くらいの大きさの天体がぶつかったことで地球の表面が吹き飛ばされ、吹き飛んだものから月ができた」とする説で、多くの研究者が信用しています。
――地球から吹き飛ばされた破片が引力で地球に戻らずに、離れたところで「月」になった……。そう考えると、当時かなりの衝撃で遠い所まで吹き飛ばされたんですね。
寺田:月ができたときは、もっと地球に近くて地球半径の3倍、今の距離の1/20くらいですかね。その後、地球から38万kmの今の場所まで離れていったようです。こんなふうに、過去には地球の表面が吹き飛ばされたこともあるし、数百km以上の鉄や岩石でできた小惑星が粉々になったこともたくさんあります。
――亀仙人やピッコロがやった「月を破壊し、かつ再生しないようにする」という行為は、ある意味ジャイアント・インパクト仮説ぐらいのことだったのかもしれないですね。
寺田:現実世界で人為的にやるのは、ちょっと想像がつかないですけどね。もう一つ大事な視点としては、月を粉々に破壊した時点で、大量の隕石が地球に降ってきます。これはとっても危険です。
――人間や動物に当たったら大けがしてしまいますね。
寺田:いやいや、そんなレベルじゃないですよ(笑)。恐竜が絶滅したときは、10kmの岩が地球にぶつかったといわれています。「月」が直径3400kmあることを考えると、当然10kmクラスの破片も生まれるでしょう。それが1個でも地球に落ちたら、今度は哺乳類が絶滅するかもしれません。
――「月」があることで、普段地球はどんな影響を受けているのでしょうか?
寺田:一番わかりやすいのは、潮の満ち引きですよね。地球の海の高さが上がったり下がったりするのは、「月」の重力で海が引っ張られているからです。
ちょっと話がそれるんですが、 「月」って実はすごく特殊な衛星なんですよ。
――特殊なんですか?
寺田:先ほど、宇宙地球科学上の月は太陽系に300個ほどあるとお話ししました。その中で、惑星に対してこんなに大きい月は、「月」だけなんです。火星には月が2つありますが、大きさの比率は1/309程度。木星にはガニメデ、土星にはタイタンといういずれも5000kmほどの月がありますが、そもそも木星と土星が地球の十倍くらいあるので、これも1/27や1/23程度です。
そう考えると、地球の1/4ほどもある「月」はぶっちぎりで大きく、それだけ地球はたくさんの影響を受けていると言えます。潮の満ち引きも、地球に対して「月」がこんなに大きいから生じる影響なんです。
――地球にこれほど大きな月があるのは、太陽系の中で見てもかなり珍しい事象だったんですね。
寺田:はい、それが「月」の一番の特徴と言ってもいいぐらいです。
話を戻しますが、地球の季節も「月」の影響を受けています。地球に春夏秋冬があるのは、自転軸が23.4度傾いたまま太陽の周りを公転するからなのですが、大事なのはこの自転軸の傾きがほとんどブレずに安定していることなんです。
安定しているおかげで、夏はいつも暑いし、冬はいつも寒い。自転軸が安定しているのも、近くに大きな「月」があるおかげです。
生命が誕生してから40億年。少しずつ進化して私たち人間が生まれたわけですが、その過程において「気候が比較的安定していた」ことは非常に大事な条件と言えます。そういう意味でも、 地球が大きな「月」を持っていたことは私たち生命にとってすごくラッキーなんです。
――地球や私たちにとって、「月」はなくてはならない存在だったんですね。では、もし「月」がなくなったら……?
寺田:お話しした潮の満ち引きがなくなるので、干潟がなくなり、海の生態系が乱れることが予想されます。それから気候がめちゃくちゃになっちゃいますよね。僕たちの住んでいる場所が、北極のような寒さになったり、赤道直下のような暑さになったりします。
これらは地球環境に直結する部分ですが、そうでなくても、私たちの身近にある絵や歌、詩、俳句などさまざまな文化芸術の題材がなくなってしまいます。例えば厳島神社(広島県)の鳥居の下にも行けなくなるかもしれませんし、潮の満ち引きによって起こっていた鳴門海峡のうずしおもなくなる。観光地の人も困ってしまうでしょう。
天下一武道会のアナウンサーも、月がなくなることによる文化への影響を危惧していた。
――そうした変化は、「月」がなくなってからどれくらいで現れるのでしょうか?
寺田:潮の満ち引きはすぐだと思います。1〜2日ぐらいじゃないでしょうか。自転軸がブレて気候が変わってしまうのは、数万年単位の話だと思います。
――仮に「月」がなくなったとして、今日明日私たちが生きられなくなるわけではないけれども、観光地がなくなったり、海の生態系が変わって、今まで獲られていた食べ物が捕れなくなったりしてしまうんですね。
――もう一つ気になるシーンがあって、悟空との戦闘の中でベジータが小さな月を作り出しているんです。その際に「太陽光が月に照り返されたときにブルーツ波が含まれる」「そのブルーツ波が満月になると1700万ゼノを超える」と話しています。
――この「ブルーツ波」は作中に出てくるのですが、現実世界でも近いものはあるのでしょうか?
寺田:これは解釈が難しいですね……。ベジータが「月に照り返された太陽光」と言っていますが、単純に考えるとブルーツ波は「太陽光の反射光」なんじゃないかと思うんですよね。太陽光の反射光は電磁波なので、何か“波”が含まれるとしたら電磁波かなあ……。こちらの図を見てください。
画像は大阪大学 寺田先生提供
寺田:普段私たちが見ている「月」は、左下のような見え方をしていますよね。つまりこれが、可視光で見た月です。
電磁波の中には電波、赤外線、X線、ガンマ線などいろいろなものがあります。電波で見ると左上のように見えて、サブミリ波で見るとその一つ隣のように真っ白に。太陽からはいろいろな電磁波が出ていて、それが「月」に当たって照り返されると、それぞれこんな風に見えるという現象が起こります。
――作中では「満月のときだけブルーツ派が1700万ゼノを超える」とありますが、現実の電磁波も、「月」の満ち欠けによって強さが変わったり、私たちに何か影響を及ぼしたりするのでしょうか?
寺田:強さは変わります。可視光で見える半月や三日月と同じで、見えない光(電磁波)も太陽光が当たる部分だけが光っています(サブミリ波やガンマ線で観た月を見てください)。満月であれば、それだけ多くの照り返しが地球に届いているでしょうね。
――ちなみにベジータはその後、自ら小さな月を生み出します。現実でも「月」を人工的に作ることは可能なのでしょうか?
寺田:最初に話した“月の定義”の話がまた出てくるんですが、惑星の周りを回る衛星を「月」と定義するなら、人類が打ち上げている人工衛星は全て「月」ということになる。つまり、人類はすでに「月」を作っています。
――確かに……。
寺田:地球にとっての「月」と同じ岩石でできているものを、という意味であれば、地球の周りを回る人工衛星から石の塊を放てば、地球の周りを回り始めます。こうすれば、岩石でできた「月」を作れたことになる。そのため、そこまですごいことではないような気がします。「月」を壊すことの方がよほど大変ですね。
――となるとやはり、単なる「月」ではなく「大猿化を引き起こす月を作り出せること」に価値があるんですね。
――寺田先生がもし月に行けるとしたら、現地で調べたいことはありますか?
寺田:あります。僕、地球の酸素が「月」に到達していることを2017年に発見して、世界中から取材を受けたんですよ。
――どうやって発見したんですか?
寺田:まず「太陽風」といって、太陽から秒速500kmほどの風が吹いています。これは地球にも到達していますが、地球には磁場があるので守られているのです。ただ時々漏れ込んだ太陽風が地球の大気とぶつかって、光る様子が南極や北極で観測されることがあります。実はこれがオーロラの仕組みです。
――知らなかった……。
寺田:「それだけの風が来ているなら、地球にある酸素も運んでいるんじゃないか?」と考え、以前「月」の周りを回っていた月周回衛星かぐや(SELENE)のデータを見直してみたんです。
そうしたら、太陽と地球と「月」の位置が一直線に並ぶとき、つまり満月のときに、「月」周辺100kmあたりの酸素量が増えていたんです。これは地球の酸素が太陽風にのって、風下の「月」に運ばれていることを示唆しています。
地球で生まれた酸素は、大体20分ほどで、「月」に到達すると計算できています。満月の夜にはこのことを思い出して、ぜひ「月」を見上げてください。
――「月」の見方が変わりそうですね。
寺田:「月」には小さなお子さんでもワクワクするようなネタが、たくさんあるんです。ですからぜひ、「月」を入口にして科学への興味を持ってほしいですね。
質問の答えに戻りますが、もし「月」に行けるなら、地球の酸素が本当に到達していることを現地で確認したいなと思います。ただ僕、閉所恐怖症なのでロケットがダメかもしれない……。
――そ、そこはどうにか頑張ってください……!(笑)。
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