2023.08.10
陸上・十種競技の元日本チャンピオンであり、「動物の倒し方」でおなじみの武井壮さん。極貧の少年時代を経て、超人たちがしのぎを削るアスリートの世界で栄冠に輝くも、その後は長い下積み時代を経験。39歳のときに“百獣の王”で大ブレイクを果たしました。
波瀾万丈の人生を過ごしてきた武井さんですが、その生き方に多大な影響を与えたのがドラゴンボールです。過酷な修業を乗り越え、強大な敵に立ち向かうドラゴンボールのキャラクターたちに、自らの姿を重ねてきたといいます。
「僕はサイヤ人じゃなくて普通の人間。でも、悟空みたいに強くなることを諦めないマインドを持ち続けていたい」。“百獣の王”のイメージとは異なる、リアルな一面も覗かせる武井さん。悟空から学んだという「人生の逆境の倒し方」を伺いました。
――ドラゴンボールは、武井さんが小学校5年生の頃に連載が開始されています。当時から連載は読んでいましたか。
武井壮さん(以下、武井):第1話から読んでますね。尻尾の生えた男の子が森のなかで走り回っていて、「わっ! なんだ、この世界観!?」と思ったのが印象に残っています。「こんなふうに育ちたかったなあ」とも思いました。
当時から僕はスポーツで日本一になるために、熱心に運動の勉強をしていたので、小さい悟空がでっかい魚を捕まえるシーンにワクワクしていました。「あんなに身体能力があって羨ましいなあ」と。
それで、その後に亀仙人やクリリンが登場して、甲羅を背負って走るトレーニングが始まるじゃないですか。それを読んで、僕もトレーニングに負荷をかけていこうと、通学用の鞄にいっぱいモノを詰めて、走って学校に行ってました。
お金がなくて、ランドセルを持っていなかったから、すごく背負いづらい鞄になっちゃったんですけど。
――幼少期にご両親が離婚されて、貧しいご家庭で育ったことは、メディアでも話されていますね。
武井:両親が離婚した後も、父親はほとんど家にいなくて、電気もガスも水道も通っていない部屋に暮らしていたこともありました。そういう 子ども時代を悟空、クリリンと一緒に過ごしていた感覚がありますね。
ドラゴンボールには、その後もカリン塔とか精神と時の部屋とか、トレーニング場のような場所が登場するじゃないですか。それで、そのトレーニングを乗り越えると、圧倒的に強かった敵キャラに勝てるようになっていると。僕の人生も、そんな修業の連続だったので、ドラゴンボールのキャラクターたちと一緒に育ってきた感覚が強いんですよね。
――悟空やクリリンが実在の仲間のような存在だったんですね。
武井:そうそう、実在のトレーニングパートナー。トレーニングパートナーであり、師匠でありっていう。だから、僕にとってドラゴンボールは、フィクションじゃなくて、現実の話なんですよ。
――大学から武井さんは陸上競技を始めて、アスリートの道に進みますけど、その頃もドラゴンボールから影響を受けていましたか。
武井:めちゃくちゃありましたよ。「界王拳を使えたらいいのに」と普通に思ってた(笑)。試合のときに「界王拳2倍!!!」と叫んで、100mを5秒で走れたら最高だなと。あと、トレーニングでクタクタになったときに「今、ここに仙豆があれば……」と思ったことも、何度もありましたし。
でも、特に影響を受けたのは、諦めないマインドで闘い続ける姿勢ですよね。
「おめぇ、強えな〜」って相手を目の前にしても、「新しい能力を身に付けて、絶対乗り越えてやる!」っていうエネルギーをもらいました。
――アスリートの世界には超人的な能力を持った選手も多いですよね。そういう選手たちの能力に打ちのめされて、諦めそうになることはありませんでしたか。
武井:朝原くん(朝原宣治。北京オリンピック男子400mリレー銀メダリスト)と初めて会ったときは、衝撃でしたね。僕が大学で陸上を始めて、半年後に国体の200m走の選手に選ばれたときに、彼は国体の選手として、100mの試合に出ていたんですよ。
そしたら、いきなり当時の日本新記録の10秒19を出してぶっちぎりで優勝して「なんだ、こいつ! 超サイヤ人じゃん!」と。僕は陸上を始めたばかりで、これからカリン塔に登り始めるところなのに、彼はすでに 全身金色でバキバキに覚醒してるわけですよ。「これは、かなわねえや」と思いました。
でも、朝原くんと話して、一緒にご飯を食べると、普通の人と何ら変わらない人間だったし、彼だってものすごい修業を重ねていることが分かったので。じゃあ、僕はどうしようと考えて、十種競技の選手を目指したんですよ。同じ闘い方で追いつけないなら、違う技を身に付けようと。僕は、走ることも、跳ぶことも、投げることもできる、そういうキャラクターになって、彼に勝ってやろうと思ったんですよね。
――まさに、悟空が敵キャラを乗り越えていく過程のようですね。
武井:室伏広治(アテネオリンピック男子ハンマー投 金メダリスト)と出会ったときも同じでしたよ。「とんでもねえ肉体だ、ブロリーかよ……」と震え上がりました。持って生まれた才能では絶対に敵わないと、一目で理解しましたね。
でも、そうやって強い存在と出会うことが人生の刺激なんですよ。僕だって、諦めそうなときに、のんびり暮らしたいって思うことはありますけど、やっぱり 「おめぇ、強えな〜」と思うと、また闘志が湧いてくるんですよね。そういうマインドがあったから、十種競技で日本チャンピオンにもなれたなんだと思います。
――その後、武井さんは「動物の倒し方」で大ブレイクしましたけど、芸能界デビューの前には長い下積み時代があったんですよね。
武井:芸能界に入るために、まずは芸人さんたちのトークを身に付けたいと思い、極楽とんぼの山さん(山本圭壱)の「チーム神様」っていう草野球チームに参加しました。山さんやその後輩の芸人さんたちとご飯に行くようになったのが芸能界に入る下積みの場でした。山さんとかロンドンブーツ1号2号の淳くんとか、誰もが知る人気者たちと歩いていると、すれ違う人がこっちを振り向いて、みんな笑顔になるんですよ。
その光景を目の当たりにして、たくさんの人に愛されるって、こんなにすごいことなんだと衝撃を受けました。まるで魔法使いみたいで、「この能力が欲しい!」とめちゃくちゃ思いました。
ただ、当然ですけど、街の人の視線は僕には向かないんですよ。そんな状態が何年も続きました。たまに、山さんが「こいつ、陸上の元日本チャンピオンなんですよ」って、人に紹介してくれるんですけど、大体は「へぇー、そうなんですかあ」で終わり。スポーツで日本一になったのに、人の心を惹きつけることはできないんだなと痛感しました。
ドラゴンボールにも、そういう場面があるじゃないですか。悟空がいくら強くても、ミスター・サタンみたいな人気者がいなければ、元気玉を撃つことはできなかったわけで。
――魔人ブウ編で悟空が元気玉を放つシーンですね。悟空に代わって、ミスター・サタンが地球人たちに協力を呼びかけたから、特大の元気玉が完成しました。
武井:世の中には強さだけでは勝てない場面があるんですよね。まさに芸能界って、そういう場所ですから。だから、僕は「動物の倒し方」を作ったんです。これまでは強さだけを追求してきたけど、これからは人を笑顔にして、愛される方法を考えようと。
その末にでき上がったのが「すべての動物を倒せると言い張っている人」というキャラクターだった。だから、 百獣の王のキャラクターは、いわばミスター・サタンみたいなものですよね。本当は動物なんか一度も倒したことないけど、倒せそうな雰囲気だけを醸し出しているっていう(笑)。でも、冗談でも何でもいいから、誰かを楽しませて、明日への希望を感じてもらうって、すごく大切なことじゃないですか。そういう意味でも、ドラボンボールに学べることって多いですよね。
――ところで、武井さんがドラゴンボールで好きなキャラクターっていますか。
武井:誰だろう、たくさんいるからな……。強いて挙げると……ミスター・ポポ、かな?
――ポポですか。どういうところが好きなんでしょう。
武井:なんか……ちょっと、山さんに似てるんですよね。
かわいくて、愛されていて、それでいて、すべてを見透かしているようにも見えるというか。突如、僕の目の前に現れて、芸能界デビューに向けた修業の場を与えてくれたのも似ているなと。
――山本さんは、武井さんにとって本当の「神様」だったんですね。
武井:30歳くらいの頃の僕はけっこう鬱屈としていたんですよ。イチローさんとか清水宏保さんとか三浦大輔さんとか、同い年のアスリートが大成功を収めているのに、自分はいつまで経っても日の目を浴びずに、埋もれたままでいたので。世間から取り残された感覚がすごくあって、正直、「この先どうなっちゃうのかな」と不安になることも多かったんですよ。
そういうときに、 山さんはミスター・ポポみたいに、僕を見守っていてくれたんですよね。草野球チームの「チーム神様」では、「なんとかなる」「勝つまでやる」が僕らの合言葉でした。僕が焦ったり、落ち込んでいたりすると、山さんが「勝つまでやる!」って言ってくれて、すごく勇気付けられたし、絶対に諦めないぞ! って気持ちになれたんですよね。
ほかにも、アンタッチャブルの柴田くんとか、僕が芸能界デビューするために助けてくれた人が何人もいるんですけど、彼らとのボケたりツッコんだりのやり取りは、 悟空がミスター・ポポとかと修業するのとそっくりだったと思いますよ。そのなかで、芸能界で通用するおしゃべりの能力を身に付けることができたので。
僕の人生には、そういう師匠的な存在が度々登場するんですよ。だから、ポポだけじゃなくて、カリン様とか界王様とか、修業の場を与えてくれるキャラクターには思い入れが強いかもしれないです。
――ここまで武井さんのお話を伺って、まるで人生そのものがドラゴンボールみたいだなと思いました。
武井:僕自身が、漫画を越えるような人生を送ろうとしているからだと思います(笑)。僕はヒーローになりたいと思っているので。ヒーローってマインドだと思うんです。負けたままでは終わらないマインド。
――「勝つまでやる」と。
武井:例えば、今、苦しい立場にいる人でも、その場で踏ん張って諦めなければ、逆境を乗り越えられる能力が身に付くと思うんですよ。悟空もそうじゃないですか。超サイヤ人になっても、どんどん強い敵キャラが出てきて、それを乗り越えるために苦しんでいるわけで。
僕も超人的な存在だって思われることがあるんですけど、決してそんなことなくて。サイヤ人でも人造人間でもない普通の人間で、いろんな逆境を乗り越えて、ここまで来ました。
だから、僕が芸能界にいる意味は、普通の人間でもヒーローのマインドさえ手放さなければ、新しい能力が手に入って、どんな場所でも勝てるようになるって伝えることです。みなさんにも、ヒーローマインドをほんのちょっとでいいから持って、毎日1分でも、10秒でもいいから闘ってほしいと思います。
――すごく励まされるお言葉をいただけてうれしいです。最後に一つ聞かせてください。武井さんは、ドラゴンボールのキャラクターで誰と闘いたいですか。
武井:それは、やっぱり悟空でしょう。
――悟空をどうやって倒しましょう。
武井:悟空より……努力する。
――おお……!
武井:悟空は努力家なんで。年を取っても、息子ができても、孫ができても、ずっと一番強い悟空であろうとし続けていますよね。そういう人を倒すには、それより努力して、乗り越えていくしかないです。
――今日は、武井さんのリアルな一面を伺えたような気がします。ありがとうございました!
武井壮さん:1973年生まれ、東京都出身。陸上競技・十種競技の元日本チャンピオン。現在はタレントとしてマルチに活躍中。2015年・2018年に世界マスターズ陸上に出場し、M40クラス(40〜44歳対象)・M45クラス(45〜49歳対象)の4☓100mリレーでともに金メダルを獲得している。現在はゴルフに挑戦中。
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取材・文:島袋龍太
写真:宮本七生
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