2022.11.24
強大な戦闘力を誇る“宇宙の帝王”フリーザ。宇宙最強の軍隊「フリーザ軍」を指揮するリーダーでもあります。
その卓越した統率力に加え、戦場では自ら陣頭指揮を執り、有能な者は敵であってもスカウト。さらに、誰に対しても敬語を使い、部下を「さん」付けで呼ぶ丁寧なコミュニケーションを図るーー。こうした優れたリーダーシップを見せるフリーザを「理想の上司」と評する声もあります。
では、人事・組織研究者の目には、フリーザのリーダーシップや組織マネジメントはどう映るのでしょうか? 立教大学経営学部教授の中原淳さんに、ナメック星での行動やセリフから垣間見える「フリーザのリーダー性」について伺いました。
※取材はリモートで実施しました
中原淳さん:立教大学経営学部教授。立教大学大学院経営学研究科リーダーシップ開発コース主査、立教大学経営学部リーダーシップ研究所副所長などを兼任。専門は人材開発論・組織開発論。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発・組織開発について研究している。単著に「職場学習論」(東京大学出版会)、「研修開発入門」「駆け出しマネジャーの成長戦略」「アルバイトパート採用育成入門」など。
――フリーザは部下を動かすとき、スピーディーかつ明確に指示を出しますよね。そして、部下が疑問を持てば、命令の根拠を丁寧に述べてくれる。一般的に、これは人の上に立つべきリーダーの姿であるように感じられるのですが、いかがでしょうか?
中原:人に動いてもらうために大事なことは、「指示が明確であること」「朝令暮改がないこと」「ロジカルに説明すること」です。確かにフリーザさんのコミュニケーションは、これらの要素を満たしているように感じられます。
また、 「短い言葉で言い切る」指示の出し方もいいと思います。ワンセンテンスにいくつもの要素を詰め込んで話すのではなく、短く一つの指示だけを伝えている。これは経験の浅い部下でも動きやすいのではないでしょうか。
日本のマネジメント層は、意外とこれができていません。仕事柄、企業の役員クラスと会話をすることが多いのですが、みんな話が長く、ハッキリ言い切らないので(笑)。
――リーダーの指示が分かりづらいとコミュニケーションエラーが起きやすいですし、部下の方が意図をくみ取らなければならず、余計な労力がかかってしまいますよね。
中原:そうですね。特にコロナ禍でテレワークが普及して以降のマネジメントでは、なおさら分かりやすく「言葉にする力」が求められています。また、Slackなどを使うテキストコミュニケーションも増えていますから、ロジカルかつ簡潔に言葉をまとめられない上司は厳しいですね。
同じオフィスで働いているときは、少しくらい説明を端折ったとしても「まあ、あとはヨロシク」と、対面ならではの“圧”みたいなものを醸し出すことで乗り切れたのかもしれません。
でも、オンラインではそうはいきません。実際、これまで場の空気やキャラクターでごまかして、ロジカルな説明を怠ってきた人や文章を書くのが苦手な人は、オンラインが主体のマネジメントにとても苦労しています。
――伝え方の観点でいえば、フリーザは部下や敵に対しても落ち着いた「敬語」を使いますよね。冷静さや品性を感じさせる反面、強いリーダー“らしくない”態度のようにも思えますが。
中原:フリーザさんが敬語で部下に接するのは、リーダーとメンバーの関係性をなるべくフラットにし、おのおのの自発的な働きを促すボトムアップ型のマネジメントのようにも感じられますね。敬語というのは誰に対してもポライトネス(丁寧で相手を思いやる表現)であり、権力差を生みませんから。
そもそもリーダーシップとは「登る山の高さを決めて、人を動かしていく」こと。この「人を動かす」という目的が達せられるなら、やり方は人それぞれでいいと思います。ただ、あまりにも上意下達過ぎるやり方は、今の若い人にはなじみません。「黙って俺の背中についてこい」という時代ではないし、みんな忙し過ぎて、そもそも上司の背中を見ていません。
フリーザさんのスタンスはある意味、時代に合っていると言えるかもしれませんね。フリーザさんがそれを意識しているかどうかは分かりませんが。
――フリーザは部下の功績をたたえることも忘れません。例えば、ドラゴンボールを7個集めてきたギニュー隊長に対し、こんなふうに褒めています。
具体的な褒めポイント(ドラゴンボールを回収する早さ)を伝えた上で、惜しみない賛辞と感謝の言葉を贈っている。この辺り、モチベーター(やる気を高め、組織の目標を達成していく役割の人)としてもかなり有能だと感じるのですが。
中原:これはいわゆる、“ポジティブフィードバック”ですね。フリーザさんの褒め方は「SBI型」と呼ばれるもので、「Situation(状況:どういう状況での)」「Behavior(行動:どういう行動が)」「Impact(影響:どう良かったのか?)」をしっかり言葉にできている点が特徴だと思います。
これも日本のマネージャーは苦手としていて、現に「会社に入ってから褒められた経験がない」という若者も多いんです。上司からすれば、これくらいできて当たり前と思うのかもしれませんが、そんなスタンスじゃ人はついていきませんよね。
リーダーシップ研究において、リーダーとメンバーの関係に着目した「LMX(Leader-Member Exchange)理論」(シーダーシップはリーダーとメンバーとの関係性によって生まれる、という説)というものがあるのですが、このLMXの質が高いほど、良い成果が生まれます。LMXの質を高めるのは給料や昇進、そして「褒める」ことも大事な要素の一つなんです。
▲敵味方関係なく、実力者は素直にたたえるフリーザ。有能とあらば、すかさずヘッドハンティングにかかるのも特徴
中原:それに、褒めるべきときに部下を褒めておくと、逆に「叱る」「ダメ出しをする」などの“ネガティブフィードバック”も伝わりやすくなります。つまり、ポジティブフィードバックは、ネガティブフィードバックのための「信頼貯金」でもあるのです。
普段ろくに褒めてくれない人からダメ出し“だけ”されても、素直に受け入れることは難しいですよね。でも、日頃からLMXの質を高め、信頼されている上司の言葉であればメンバーの受け止め方も変わってくるはずです。
――ちなみに、フリーザは部下を叱るときも声を荒げたりはしません。例えば、ベジータを倒したものの生死の確認を怠ったザーボンに対しても冷静に対話し、反省を促しています。
中原:部下を叱るときに大事なのは、相手を萎縮させないことです。怒鳴り散らすことで部下が萎縮してパフォーマンスが下がれば、チームの目的にかえって遠ざかってしまいますから。その点、冷静に落ち着いた口調で、行動の問題点を明確に伝えているのはマネージャーとしてとても良いアプローチだと思います。
また、フリーザさんはミスをした部下(ザーボン)を叱ったのち、すぐに新たな指示を出しています。このように リカバリーの機会を与え奮起を促すことも、大事なポイントですね。
――フリーザは「現場主義」でもあると思います。ドラゴンボール争奪戦においては、常に前線で指揮を執り、必要に応じて自ら敵と戦っています。一般的に悪の組織のトップといえば、影で部下に指示を出すイメージですが、リーダーといえど、やはり時には現場に出ることも必要なのでしょうか?
中原:もちろん、一般論としては大事です。リーダーが机上の空論やデータだけを信用し、現場の温度感を知らないままプロジェクトを進めて失敗したなんていう例は、いくらでもありますから。
ただ、リーダーシップの基本は他者に動いてもらうこと。つまり、「任せること」です。「経営の神様」の異名を持つ松下幸之助の「任せて任せず」という言葉がありますが、どこまでを部下に任せ、どこから自分が巻き取るのか、そのバランスを考えるのもリーダーの務めです。
でも、世の中のリーダーの多くは、「任せて任せて」か「任せず任せず」のどちらかになってしまっている。つまり、部下を信用せず全て自分で巻き取ってしまうか、逆に任せっぱなしで放置してしまうかの2パターンです。
――どちらも良いリーダーとは言えませんよね。
中原:そうですね。ですからリーダーには部下を観察する力が求められます。個々の能力や特性を把握し、仕事の進め方を常に注視する。その上で、任せる部分と介入する部分を適切に判断することが大事です。そうした観察力のないリーダーの下で働かなければならない部下は、本当に気の毒だと思います。
その点では、フリーザさんは 「任せる・任せないのバランス」が絶妙だと思います。
▲部下に丸投げせず、必要に応じて自らも積極的に動く
――ここまでフリーザのマネジャーとして優れた点について伺ってきましたが、その中で今の時代に最も大事な要素を一つ挙げるとすると何になりますか?
中原:どれも大事ですが、やはり「説明力」だと思います。特に、若い部下を動かすには言葉を尽くさないといけない。彼ら彼女らは失敗や遠回りをしたくないから、まずは明確な目的や全体像を知りたがります。そこで腹落ちさせるロジカルな説明ができなければ、メンバーのモチベーションを喚起することはできないでしょう。
テレワークが主体のチームであれば、なおさら物理的な距離を埋めるための言葉が必要です。コロナ禍で苦労しているマネジャーは「魔法のつえ」を求めがちですが、そんな都合の良いものはありません。分かりやすく丁寧に説明し、意思疎通を図るしかないんです。「いいから黙ってやれ!」はもう通用しません。
――宇宙一強いフリーザなら、それこそ「黙ってやれ」でも通るはずなのに、しっかり対話で部下を動かしています。そんなフリーザはやはり「理想の上司」と言えるのでしょうか?
中原:あくまでフリーザさんの言動を表面的に解釈するなら、「素晴らしい上司」と言えるかもしれません。
でも、そもそもフリーザ軍は“悪の軍団”であり、フリーザさんは“悪の帝王”として、根本のところでは恐怖によって部下を支配しているわけですよね?
――たしかに。言うことを聞かないと結局殺されてしまいますからね。
中原:彼のマネジメントの根底にはマキャヴェリズム(権謀術数主義、目的を達成するためには手段を選ばないこと)のような考え方があり、彼の言動や振る舞いはナルシシズム(自己愛症)やサイコパシー(人を破壊する精神病質)もはらんでいるようにも感じます。これらの気質は心理学で「ダークトライアド」(他人のネガティブな感情を喜びに感じる気質)と呼ばれ、決して肯定すべきものではありません。
厄介なのは、こうした破壊的なリーダーシップは、短期的には通用してしまうことがあるんです。部下たちは恐怖のあまり、邪悪なリーダーに従ってしまう。それでも、中長期的に見ればそんな組織は長続きしないと思います。
チームの生産性を上げるには部下が上司に言いたいことを言える「心理的安全性」を高める必要がありますが、 逆らえば殺されてしまうようなリーダーがいる状況では心理的安全性も何もないですから。
――それでもリーダーとしてのフリーザに魅了される人がたくさんいます。
中原:フリーザさんが理想の上司のように言われるのは、それだけ世の中に“悪い上司”が蔓延っていることの裏返しかもしれません。指示が明確でなかったり、ロジカルに説明してくれなかったり、オラオラと高圧的な物言いをしたり、現場のことを何も分かっていなかったり。みんな、そういう上司に嫌気が差している。
だから、 ダークサイドにいながらも冷静でロジックを大切にするフリーザさんの存在が際立つんじゃないでしょうか。ただ、真のリーダーはダークサイドに落ちてはいけませんが。
取材・文:榎並紀行(やじろべえ)
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